芹沢由紀子

シンドラーのリストの芹沢由紀子のレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
4.7
30年近く前、すごい前評判で公開が始まったけど、私は「夜と霧」とか「アンネの日記」などを読んでいて、トラウマになってしまい、ものすごくホロコーストを題材にしたものが怖くてですね、観に行けなかったのです。代わりに両親にチケットをプレゼントして見に行かせた記憶があります。自分の心が傷つきたくなかったんですよね。
帰ってきた両親は「すごい映画だった・・・」と申していて、それで何となく満足してしまいました。

それから30年がたち、いろんな書籍やほかのホロコースト映画なども観て、ようやく覚悟を決めて年末、この名作を鑑賞しました。
凄い映画でした。もっと早く鑑賞しておくべきだった。

この話を周りにすると、自分も同じ気持ちで観ていない、という人が結構いたので、観る人に多大な覚悟を強いる映画として結構上位に来る作品なのではないだろうか?

多くの人が絶賛のレビューをしているので私があえて絶賛する必要を感じない。でも本当に観るべきだったと思うし、観てよかった。

史上最悪のクズ人間として歴史上に名を刻んだ収容所の所長アモンの描き方にすら、監督の愛を感じた。
彼の尺を非常に長くとることで、作中の「彼だって戦争下でなく平和な世ならただの男だ」みたいなセリフが効いてくると思うし、だいたいのドイツ軍人が残虐非道だったわけではないことを言いたかったのだと思う。

彼の実際の処刑シーンが、YOUTUBE上で今も観れるのも驚いた。アモンは190センチの巨漢で、絞首刑のロープが重さで何度も切れて、3回目でやっと処刑されるなど、運命論者じゃないけど業のようなものを感じる。

わたしがスピルバーグ作品を見るたびに、疑いの余地のない天才だろうとうなるのだけど、今回も、シンドラーの工場の行員たちが移送される際、男女に分けて汽車に載せられるシーン。
女性子供を引き離されるシーン、女性子供だけがアウシュビッツに輸送されてしまう手違い、そして身体検査ののち集団でシャワー室に詰め込まれるシーン、「アウシュビッツに足を踏み入れるとガス室に送られる」という噂を聞いた女たちは恐怖におののく。

この凄まじい息をのむ緊張と恐怖の連続と、むねをなでおろす安堵のあたたかなシーンのものすごい緩急のバランス技。
長い長い2時間半超えのジェットコースターに乗せられてしまった観客のわたし。
撮っている監督やスタッフでさえも、心が折れそうになりメンタルケアを必要としたと思う。でも、これはこの先同じことを起こさないためにも必要な偉業だと信じてみんな取り組んだんだと思った。
ありがとうしかない。
ありがとう。

そりゃあ、スタンリー・キューブリック監督も「これ以上のホロコースト映画は作れない」といって映画を作るのあきらめるわけだわ、と思いました。

実在のシンドラーさんは人間的にも欠陥だらけで戦後も苦労されたみたいだけど、自身が救い出したユダヤの人々に逆に庇護されて生活していたらしいので、その辺もリアリティーがあるし、美談だけでは済まされないドラマがあったのだろう。
この映画が、彼を美しく伝説化したのを批判した人もいるらしいけど、それ以上に一般の市井の人の心を揺り動かして誰にでもわかりやすく、伝記化した功績の方が遺産としてでかいことは間違いないね。
芹沢由紀子

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