芹沢由紀子

異端の鳥の芹沢由紀子のレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.5
これはねえ、ずっと怖くて長いこと見られなかったやつなんですよ。
前評判で「映画祭で上映中に途中退場者続出」とかいわれると、そんなに残酷なの!子供が痛い目に遭うシーンは見たくない!と覚悟が要ったからです。

でも結論は「観てよかった。いやむしろ観るべき」でした。
監督さんがこれを作り上げようとする熱量、すごいし、まるでごつい文学作品を読んでいる気分で最後まで熱中して全力疾走できた。
確かに残酷描写はあるけど、モノクロだしおとぎ話っぽい描き方で、「ミッドサマー」のほうが100倍心臓に悪い。


好きなシーンはたくさんあったけど、やはり作品の根幹となる「異端の鳥」が弾かれる部分は胸に刺さる。
ホロコーストの知識を持っていた方が、時代背景が理解できてより物語に没入できると思う。
パルチザンが潜入しているって疑いをもたれただけで、数百人の村人が大量虐殺されて、村が消滅したこともあるのだから、これはおとぎ話ではない。
今もロシアがウクライナを、イスラエルが大っぴらにパレスチナ人を虐殺しているという事実が世界中に知れ渡っても、世界はそれを止めることもできていない。私も無力で何もできていない。今半径30メートルの世界で生きるのに必死になっているだけ。
無力感。
でも、この作品は人間も野蛮な動物の1種に過ぎないと教えてくれる。

心をえぐられそうで、怖くて見てないという人は見てほしいです。
最後には勇気をもらえるかもしれません。
芹沢由紀子

芹沢由紀子