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羊たちの沈黙のRiNのレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
4.1
『メトロノーム』

異常殺人を扱った作品、これ以外にもとてもたくさんあります。サスペンスやミステリーに限らず、刑事モノドラマなんかでももはや定番。そのショッキングさは物語を観客にアピールするうえでとてもキャッチーでもあり、主題にしやすさはよくわかります。

さて今作、登場するのは「女性の皮膚を剥ぐ殺人鬼」。キャッチーです。
さらに、それを捜査するのは美人な新人女性捜査官と、「モンスター」と呼ばれる、食人の罪で収容されている精神科医。とてもキャッチーです。
とはいえ、ここまでの前提は、よく見るパターン。元祖であるとはいえ、古臭くなってしまいそうなところが、なぜ今作がこんなにも、いまだに絶賛されるのか。

レクター博士を演じるアンソニー・ホプキンスのたぐいまれなる演技力、極端にまで減らした瞬きや独特のリズムを刻む話し方がよく言われるところですし納得ですが。が。
その特別さは、その贅沢な時間の使い方にあるのではないかな、と思いました。

この手のサスペンス、後半畳み掛けがちじゃないですか。ハラハラドキドキの音楽で煽って、小物の警官走らせて、わざとブレるカメラワークなんかで演出して。
今作、そういう、小細工があまりないんです。物語のペースは一定、シーンの切り替わりが少なく、きちんと捜査を積み重ねていく。そうやって、一見地味で単調なシーンを積み重ねる間、この映画は観客に考えさせます。
誰が犯人か、レクター博士の意味深な質問は?
この、たっぷりとした「間」こそ、今作の醍醐味なんだな、と。最近のスリラーやサスペンスがいかに走ってるか、すごくよくわかる。決して焦らず、メトロノームのように正確な時間の刻み方、がもう、胃にくる。たまに挟まるレクター博士が超怖い。

そして、今作はもうひとつの恐怖の釣り針を示唆します。それは、主役のクラリスの魅惑性。執拗に映される彼女の、男性を魅了するその雰囲気、むしろそこ切り取ってスピンオフ作って欲しい。
知ってます?異常にモテるひとって、サイコパス性が高い場合が多いんですって。
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