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羊と鋼の森のRiNのネタバレレビュー・内容・結末

羊と鋼の森(2018年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

『美しい物語のその先』

何が羊で何が鋼なのか。そのゆえんは存外早く明かされる。曰く、鋼の線とそれを叩くハンマーの素材、羊の毛(ウール)からだそうだ。ではなぜ、森なのか。
ピアノはどうも、森を想起させるらしい。木製の楽器から奏でられる、音色の多彩さゆえだろうか。盛りの森は、多種多様な生き物の気配、鳴き声や足音・羽音、風にさんざめく木々の葉音、水音に満ちる。その多彩さは音楽にインスピレーションを与えることもあれば、最近では録音がそのままサンプリングされることさえある。

さて、本編に話を戻そう。
主人公はそんな森で育った実直な青年、トムラ。人生の岐路に立たされた頃、学校へ訪れた調律師の仕事ぶりに運命めいたものを感じ、調律師を志した。

調律の仕事はひたすらに地味だ。映画冒頭にその詳細な説明が挟まれるためここでは割愛するが、なかなか画になりにくい。
しかも主人公も地味だ。田舎育ち故に純真で飾り気はない。性格的にも寡黙で真面目、繊細すぎるほどにナーバスな一面も併せ持つ。こちらもなかなか画面映えしない。
題材が題材なだけに、斬新な演出を加えてもよかったのではないかな、と思わなくもないけれど、どうもレビューは高評価らしい。地味ではなく、滋味、といったところなんだろうか。

今作、原作ファンがとても多かった。わたしもそのひとりだし、2010年代に入っての貴重なベストセラー・フィクションともなれば、映画製作も慎重になるだろう。その意味では、綱渡りは大成功だ。原作の良い味を損なうことなく、きちんと実写化している。お手本といってもいいくらいの出来栄えだ。
しかし、イチ映画ファンとしてお小言が許されるなら、それでは原作を絶対に超えない。理想は、映画と原作は全然別物、しかしどちらも良い!と思わされたい、良い意味で裏切られたい。
エンターテイメントは記憶に残ってこそだと思う。残念ながら今作、来月には細部をきれいさっぱり忘れているだろう。
RiN

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