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TENET テネットのRiNのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.1
『あるいは、時をかける少女』

キタキタ!ノーラン新作!って喜んでる人の8割は理系だと思う。偏見です。
さて、骨の髄まで文系、どのくらいかと言うと高校最初の数学のテストで赤点を叩き出し、2年の中間テストでは眩しい白衣がトレードマークの物理教師に頭を抱えられたくらいには理系壊滅のわたしですが(そもそも物理必修っていうのが鬼畜だと思いません?)、普通に楽しめましたTENET。大衆映画の監督ってのはサービス業なので、ちゃんとバカにもわかるように(わかんないけど)作ってくれてるよ!ってことが伝えたかった。なんかさ、毎回思うけどノーラン映画のレビューってめちゃくちゃ理系博士号が幅利かせてない?見る気失せるんだけど、ってひとにもオススメしたい。

まずはなんと言っても流れるようなスムーズさ!冒頭の少し後、停泊した船から降りてタイミングよく無人になった車の運転席に乗り込み、ナビを開始するまでのあの感じ、一体何テイク撮ったんだろう。見事なまでの早着替えや、状況を理解するスピード感も、主人公のスマートかつ大胆なキャラクターを何より雄弁に語る。このシーンを見ていて、あー、ノーランが撮ったボンドが観たいなーと思いつつマスクの下で感嘆のため息。

次に、キャラクターたちのリアルなニヒル。特にお気に入りは英国紳士はこれぞ!というマイケル・ケイン。嫌な奴ってのは無意識化まで嫌なやつなんだぞという、基礎はできてるくせに横柄なテーブルマナーとか、黒人である主人公に対するごくごくナチュラルな蔑視とか。ブルックスブラザーズのスーツってそこそこの値段じゃない?というひとはそもそもお呼びじゃないのよ。ていうかなんだあの店、ぜってえ行きたくない。アジア人なんかゴミか猿だぜ。
そういう、細かくて見落としそうなリアルができてるからこそ、悪役であるケネス・ブラナーのこれまでの人生の濃く長い影が見えてくる。出身地すらあやふやな彼がのし上がる過程にどんな絶望があったか、ちらちらと見え隠れしてくるのです。言ってみればHUNTER×HUNTERの幻影旅団みたいな出自ですからね。
それにしてもケネス・ブラナーの達者さったら。一気に「ナイル殺人事件」観たくなったよね、彼のポワロはきっと絶品でしょう。

さらになんだけどもう、エリザベス・デビッキ。何はともあれ。ひとりだけ等身おかしすぎて画面の中ですら違和感がすごい。主人公はもちろん、ケネス・ブラナーすらダサく見える完璧美人のエリザベス。出てくるシーンのすべてがランウェイ。子供のために屈むときもありえない角度。車のシーン、あまりにも長い足を活用してて全然そんなシーンじゃないのにちょっと笑っちゃったもん。

で、ダメ押しのニール。なんだよそんなんもうずるいじゃん。時をかける少女じゃん。詳しくは見てほしいけどそういう、そういうやつかよ。薄々予想してたやつと違ったわ。ノーランなんなの。
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