サマセット7

メリー・ポピンズのサマセット7のレビュー・感想・評価

メリー・ポピンズ(1964年製作の映画)
4.0
監督は「ジェーン・エア」などのロバート・スティーヴンソン。
主演は「サウンドオブミュージック」「引き裂かれたカーテン」のジュリー・アンドリュース。

[あらすじ]
1910年ロンドンにて、気難しい銀行員である父親ジョージと女性参政権運動に熱心な母親ウィニフレッドから顧みられず、乳母(教育係)に丸投げされたバンクス家の姉弟ジェーンとマイケルは過剰な悪戯を繰り返し、乳母をすぐに辞めさせてしまう。
そんな中、傘を差した女性、メリー・ポピンズ(ジュリー・アンドリュース)が空を飛んで来て、新たな乳母に就任する。
不思議な力を持つメリー・ポピンズは、姉弟に次々と新たな体験をさせて、その心を掴むが、それは父親ジョージが厳守する秩序を揺るがし…。

[情報]
1964年公開のディズニー製作のミュージカル映画。
実写メインだが、一部のシーンにアニメーションと実写をミックスした描写がある。

原作はP.L.トラヴァースの児童文学「メリー・ポピンズ」シリーズ。

今作は、ジュリー・アンドリュースの映画デビュー作である。
彼女は、今作出演時点で、ブロードウェイとテレビドラマにおいて、傑出した歌唱力を武器に高い人気を博しており、今作には満を持しての映画主演であった。
アンドリュースは、今作でアカデミー主演女優賞を受賞。
さらに1965年のサウンドオブミュージックでも主演女優賞ノミネートと映画史上屈指のセールスを記録。
当時最も成功した映画スターとなった。

今作は興行的にも批評的にも成功している。
製作費600万ドルに対し、興行成績は米国内に限っても1億ドル超とされている。
アカデミー賞に作品賞含む13部門ノミネート、主演女優賞、編集賞、歌曲賞、作曲賞受賞。
なお、この年の作品賞受賞は「マイフェアレディ」。
「マイフェアレディ」はブロードウェイ時代のジュリー・アンドリュースの代表作であった(映画版の主演女優はオードリー・ヘップバーン)。

ディズニー製作の実写映画の中では、ウォルト・ディズニー存命中では特に成功した作品である。
現在でも批評家からの支持率は極めて高い。

今作では、「チムチムチェリー」「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」 「Step in time」など、有名曲が数々用いられている。
「チムチムチェリー」は、アカデミー歌曲賞を受賞した。

[見どころ]
ジュリー・アンドリュースとディック・ヴァン・ダイクによる歌唱とダンス!!!
夢が溢れるファンタジー描写の楽しさ!!
傘での飛行!片付け!!回転木馬!!!
ディズニー一流のアニメーションとの融合!!
子供が楽しめるストーリー!と見せかけて、大人にこそ響く深いメッセージ性!!!!

[感想]
予想以上に名作。

ミュージカル映画のクラシック、という程度の認識だったが、なるほど、当時の大ヒットと高評価には理由がある。

まずは、ミュージカル映画として、歌とダンスがとにかく楽しい。
聞けばわかる有名曲チムチムチェリーをはじめ、各曲のキャッチーさはさすが。
さらに、サウンドオブミュージックで著名なジュリー・アンドリュースの演技、歌唱、ダンスは安定。
さらに煙突清掃員バークを演じるディック・ヴァン・ダイクによる歌唱とダンスも、切れ味鋭い。
これらのミュージカルシーンを、かなりたっぷりと尺を使って、じっくり見せてくれる。
近年の映画で、ここまでゆったりした尺の使い方は難しいのではないか。

また今作は、ディズニー映画としても重要な作品だ。ということが、見ればわかる。
途中のメリー・ポピンズとバーク、子供たちが絵の中に飛び込んで以降のかなり長いシーンでは、実写とアニメーションの融合が続く。
このアニメが、この時期のディズニーアニメそのもの!!
どのシーンも良いが、特に、ペンギンたちとバートのダンスシーン!!!
これは今見ても凄い!!!

さらに、今作は、テーマ性もしっかりしている。
一見子供向け映画だが、そのメッセージが大人にこそ向けられている、という構造は、近年のディズニー映画やピクサー作品で踏襲されているが、1964年時点で既に確立されているのか!!

長尺の上古い映画ではあるが、現代の子供が見ても、十分楽しめる作品だと思う。
もちろん大人も見る価値がある。
なるほど、これは名作である。

[テーマ考]
今作は、「人生において、大事なことは何か」を問いかける作品である。
メリー・ポピンズは、バンクス家の姉弟にさまざまな体験をさせる。
それは、それぞれ人生において大切なものの教育になっている。
一見面倒な仕事もやり方によっては、楽しめること。
笑顔の効用。
俯瞰的な視点を持つべきこと。
想像力の素晴らしさ。

これらのメッセージは、子供たちを通して、父親ジョージにこそ向けられている。
仕事と効率性に囚われ、子供の気持ちや、人生を楽しむことを忘れたジョージは、資本主義社会で営利に囚われた大人たちの姿そのものである。

だからこそ、映画のクライマックスを担うのは、メリー・ポピンズでも、子供たちですらなく、父親ジョージなのだ。
ジョージが直面する事態において、ジョージが導き出す結論は…。

なるほど、これは、親世代にこそ刺さる映画だ。

[まとめ]
今見ても楽しく、深いメッセージ性を含む、ディズニー製作のミュージカル映画の名作。

好きなシーンは、ペンギンの実写アニメ融合ダンスシーンと、煙突清掃員大集合のStep in timeの集団ダンスシーン。
いずれもバークの活躍シーン。
何者かよくわからない清掃員が大活躍する、というのも、今作の不思議な味の一つかもしれない。