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メリー・ポピンズのKuutaのレビュー・感想・評価

メリー・ポピンズ(1964年製作の映画)
4.0
リターンズに向けて鑑賞。名作。
アニメーションと実写を融合させたミュージカル映画に挑むチャレンジ精神と、「現実をフィクションが乗り越えていく快感」にあふれた作品だ。昼も夜もない煙突=マジックアワーに現れる、現実を超越した空間。この場面、絵を使った幻想的な見せ場から、役者の肉体勝負のダンスへ繋ぐ構成も上手いし、それを「悪魔のよう」と評したセリフも面白かった。確かに部外者からしたらあの人々は完全に化け物だなと。

企画の発想や技術力だけでなく、役者の演技が素晴らしいのがこの映画の魅力だと思う。ジュリー・アンドリュース演じるメリーポピンズは人間離れした存在でありながら、随所に見せる言葉遣いやリアクションがとてもチャーミング。ディック・ヴァン・ダイクのダンスのキレ味、目の輝きも良いし、デヴィッド・トムリンソン演じる父バンクス氏の繊細なキャラクターも、コミカルかつ切なくて魅力的だ。

女性参政権、ボストン茶会事件も絡めて階級社会での自由を求める「バンクス氏の変化」を描く。独りぼっちだった彼の考え(=旧態依然としたイギリス社会)は、メリーポピンズによって揺さぶられる。「西からの風」=イギリスから見たアメリカ?夜道で2ペンスをエサ代に使おうとするが…という展開など、実は大人向けのほろ苦いドラマが話の軸にある。

バンクス氏は、人生を生き抜くには辛い現実を直視すべきだと主張するが、メリーポピンズはそこにスプーン一杯の砂糖を加えて対処する術を教える(散らかった部屋や真っ黒な煙突を歌いながら掃除するように。嫌っていた薬が甘く感じるのもストレートな描写)。煙突掃除人と対になる銀行の悪役を、ディック・ヴァン・ダイクが一人二役で演じているのも周到な配役だ。80点。
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