emily

ある子供のemilyのレビュー・感想・評価

ある子供(2005年製作の映画)
4.3
子供のまま子供を産んでしまったソニア。そうしてその恋人のブリューノ。定職はなく、ひったくりでその日暮らしをしていた。子供ができても父親の自覚は全くなく、相変わらず子供たちを従え盗みを働かせている。ソニアに愛想つかされても、その日のビール代のことしか頭になかった。目先のことしか見えず、子供を売りに出してしまい、ソニアに本気で出ていかされ、行き場をなくしてもなお、子供と盗みをしていた・・

子供が子供を産む。母親は自分のおなかを痛めた子供だし、生まれることで母性も生まれ、母親の自覚が出てくる。だが父親はどうだろう。生まれたからと言ってすぐに父親になれる訳ではない。父になるのはやはり子育てにかかわっていくことで、次第にその実感がわいてくるのではないかと思う。

子供ができたから変わりなさいと言われて、変われるものではない。ブリューノの家庭環境は詳しくは描かれていないが、彼の育った環境も愛に満ちた場所であったようには思えないし、今まで痛みを感じたり、大きな苦労もなくただ盗んで楽しんでの生活を繰り返してきたのだろう。映画では語られなくても人の感情として、誰かにやさしくしたり、おもいやることができる人は、何かしら自分も痛みを感じた事があるからだと思う。

若干20歳の少年でもそれができる人ももちろんいるだろうが、彼の場合は違った。そりゃぁ経験がないんだもの、悪意は全くない彼の本音が行動に出てるんだと思う。

ソニアに捨てられて、初めて自分自身が傷ついて、人にやさしくする、思いやるということがどうゆうことか知ることになる。これは子供が父としての自覚を持つようになる物語ではない。まだそれよりずっと前の段階で、人として人を思いやる、最低限の気持ちを持つことを学ぶある子供の話なのだ。

でもそこにある気持ちは純粋で、ちゃんと学べばきちんと大人になっていくことができるのです。要はそれを教えてくれる人と、出来事に恵まれているかどうか。

子供のまま未熟なまま父親になっては非常に危険です。その前にきちんと人として学ぶことを学び、子供からまずは大人になってから子供に向き合うのが順序だと思う。
淡々と描かれた物語の中にも、傷を負った後、きちんと思いやれる行動が描かれていて、すごく救われた気分になった。人が人を思う気持ち、単純なことだけど、それがどんなに大切なことなのかを改めて感じさせられる。無音のエンディングの中、しっかり考えさせられた。
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