emily

あなたになら言える秘密のことのemilyのレビュー・感想・評価

4.2
仕事態度がまじめすぎると、無理やる休暇をとらされるハンナは、旅先で看護師の仕事を2週間することになった。在宅看護で、患者は事故により重傷を負い、一時的に目が見えなくなっているジョセフである。毎日規則正しい生活、決まった食事で、人とかかわりを持たないように生きてるハンナだったが、ジョセフが自分の秘密を徐々に話して心を開いていくことによって、彼女もまた自分の心の扉を開き始める・・・

密室空間での介護と看護により、同じ空気を吸い、体が触れあう。そこに通う人のぬくもりを、当然ハンナも感じない訳はない。感じるからこそ自分の中で葛藤がおこり、ジョセフの残した食べ物にむさぶりつくシーンがある。決まった物しか食べないハンナの心が少し揺れ始めたシーンだ。

ハンナの秘密はジョセフに向けた会話だけで綴られる。一切の映像も音もない。ただ淡々と静かに簡潔な言葉で、感情ののらない言葉で語られる。それはまたジョセフと同じように、状況を思い浮かべながら観客もその話を聞くのだ。言葉だけで綴られるからこそ、その重圧感は声が出ない痛みを植え付ける。

彼女の心の痛みはいつになっても消える事も、癒える事もないだろう。自分の体についた傷を見せる事で、触れさせることで、それが一生死ぬまでついて回るということをしっかりと焼き付ける。

今見たこと、聞いたこと、感じた事、それは悲しくも私たちはいつかは忘れていくであろう。しかし生き延びた事を恥じて、細々と最低限の物に囲まれて生きている主人公は、それを絶対に忘れる事は出来ないのだ。いや、忘れる事は許されないのだ。それが唯一生きる方法であり、それしか彼女にはないのである。それが死んでいった者に対して彼女が唯一できる事だからだ。
emily

emily