サマセット7

キッドのサマセット7のレビュー・感想・評価

キッド(1921年製作の映画)
3.8
監督・脚本・主演・音楽(1971年サウンド版)は、「街の灯」「モダン・タイムス」のチャールズ・チャップリン。
子役は映画史上初の子役スター、ジャッキー・クーガン。

[あらすじ]
金持ちに拾われるようにと願われて、母から捨てられた赤ん坊は、偶然から、貧民街の風来坊(チャップリン)に拾われることに。
5歳になった子供(ジャッキー・クーガン)は、風来坊と共に、貧しいながらも逞しく、幸せに生きていた。
一方で、金持ちになった母親は、捨てた子を忘れられない。
そして、子に迫る病魔の影。
血の繋がらぬ父子の絆の行方は…。

[情報]
1921年のモノクロ・サイレント映画。
1971年にチャップリンが自ら劇伴を付けたサウンド版を視聴。

1921年時点で既に短編映画を量産し、世界で最も有名な喜劇役者にして映画監督でもあったチャールズ・チャップリンが、初めて挑んだ長編監督作品。

完璧主義による撮影長期化と製作会社への説得、離婚訴訟との関わり、子役クーガンとの運命的出会い、クーガンのその後とクーガン法などなど、逸話が多い。

喜劇と悲劇を融合させた史上初の作品とされており、映画史的に重要な作品。
チャップリンの代表作の一つと評価されている。

ジャンルは、スラップスティック・コメディ。
血の繋がらない親子バディものの走りであり、後のフォロワーを挙げればキリがない。

現在においても、評論家、一般層の両方から最高級の評価を受けている、クラシックである。

[見どころ]
引き離されようとする子を追いかけるチャップリン!!
チャップリンを求めて悲痛な叫びを上げる子供!!
サイレントにも関わらず、雄弁な人間愛の表現。

[感想]
全世界が大好きだった喜劇王の代表作とあって、面白くないはずがなく、当然、面白かったし、しっかり感動もした。

公開から2022年現在で101年経過していることを考えると、なかなかすごい。

今作の魅力は、なんといっても、非常に根源的な、生活を送る中で、育てる者と育てられる者の間に芽生える愛情を克明に映像化している点にあろう。

その象徴が、病気の子供を施設に連れていかれそうになって、チャップリンが抵抗し、追い縋るシーンである。
そこには、チャップリン的な笑いとチャップリン的な悲哀の両方が、最善のバランスで詰まっている。
冒頭の「笑いと、ひょっとすると、一粒の涙を」の字幕は、今作の要約であり、チャップリン作品の端的な説明でもある。

天使のシーンなど、必要性がよく分からず???となるところもある。
とはいえ50分と短いため、サイレントといえどさっくり観られた。

個人的にはコメディのキレとラストの感慨という意味では「街の灯」の方が好きかな。
しかし子役の素晴らしさを考慮すると、こちらに軍配が上がるかもしれない。

社会風刺的なキレ味は今作でも見られるが、まだまだ全開という感じではないか。

[テーマ考]
情と愛。

思わず拾い上げたはいいが、道端に戻そうとしてもお巡りさんの目が光って、再度捨てることもできず、なんだかんだ拾ってしまった、捨て子。

しかし、5年の月日は、2人の他人を、親子に変える。
石とガラスを用いて日々を生き抜く2人は、歳の離れた相棒同士でもある。

そんな2人を無情に引き裂くのは、社会だ。

男は、子供は、抵抗する!
全力で!!

貧しさは不幸か?
血の繋がりがなければ、2人のこれまでは、偽物だったのか?
音無き映像は、違う!!と叫ぶ。

他のチャップリン作品同様、富裕者の驕りや社会機構の無情さなど、強い社会批評性がある。

[まとめ]
チャップリン初の長編監督作品にして、映画史上初の子役スターを生んだ、擬似親子バディコメディのクラシック。
なお、チャップリンといえば、ちょび髭と山高帽子、体に合っていない背広と靴でガニ股でバタバタ歩くスタイルがあまりにも有名だが、素顔はわりと端正なイケメンだったりする。