くましん

クローズ・アップのくましんのレビュー・感想・評価

クローズ・アップ(1990年製作の映画)
4.5
「映画の歴史はグリフィスに始まりキアロスタミで終わる」
数年前に渋谷の映画館にてキアロスタミの全ての映画が上映されるという企画があり、その宣伝リーフレットに記されていたジャン・リュック ゴダール氏の言葉である。この言葉を氏がどのような文脈で発していたのか僕は知らないため、解釈のしようがない。ただ、この映画をみた限りでは――僕の情報環境では残念ながらキアロスタミの作品は今作と「トスカーナの贋作」しか観ることが出来ていない――キアロスタミが劇映画の歴史は終わらせた、と感じることが出来た。

実際に起こった事件を取材したノンフィクションというかドキュメンタリーの部分と、その事件の内容をその事件の当事者にそれぞれの本人役を演じさせて撮り直したフィクションというかリアルの部分、この二つの部分から成っている映画である。リアルかアンリアルか、フィクションかノンフィクションか、そんな二項対立は最早どうでもよい映画である。
そう、紛れもなく「映画」であったのだ。

俳優は一人も出ていないのだが、確実に良質な映画として成立していた。監督の才能ももちろんだが、実際に起こった過去を再演しているその当事者であったからであろう、俳優として全く違和感が無かった。僕たちの現実は、役を与えられて演じているだけではないのか。そう感じると、自分の人生が皮相に感じてしまうと同時に楽しめそうでもある。

映画監督に成ることに少しでも憧れのある者は感動する映画でもある。
特にラストシーン。僕は被告の彼と共に泣いてしまった。映画監督に成りたい!のかな。
くましん

くましん