たく

地獄の警備員のたくのレビュー・感想・評価

地獄の警備員(1992年製作の映画)
3.4
事務所ビルの警備員が社員を次々襲う黒沢清監督1992年の不条理ホラー。美術商の高額な取引が出てくるのがいかにもバブル期の日本の雰囲気なんだけど、作品自体はかなりチープな印象。予算がなかったのか直接的な暴力描写は控えめだった反面、心理的な恐怖をジワジワ盛り立てる演出は良かった。松重豊の映画デビュー作とのことで、彼がこんな役をやってたのは驚き。久野真紀子の素人演技が作品のチープさを助長してるけど、漂う清楚感はシュールな本作のヒロインにふさわしいとも言える。

バブルで成長した美術商に初出社した秋子が同僚の男たちから言い寄られる中で、過去に犯した殺人が心神喪失により無罪となった元力士のビル警備員が怪しい行動を取っていくというシュールな展開。松重豊が元力士役というのがまず考えられないんだけど、その高身長を活かしてモンスター感を出したかったんだろうね。秋子に迫る久留米がプチサイコパスで、彼の異常さをモンスター的存在の警備員が上書きする図式に「ヒメアノ~ル」の安藤と森田の関係を連想する。

階段のドアがときどき開かなくなるのがちょっと不自然で、しまいにはなぜか全員ビルから出られなくなるという「キラー・ジーンズ」みたいなご都合展開。終盤でやっと警備員の暴力描写が加速してきて、彼の狂気に満ちた行為が壁にかかるゴヤの「我が子を食らうサトゥルヌス」に投影される感じの演出が上手かった。電話回線を遮断された窮地を脱する鍵となるのがテレックスというのが、いかにも時代を感じさせる。ラストの洞口依子の贅沢な使い方には「ミセス・ノイズィ」を思い出す。
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