前方後円墳

でらしねの前方後円墳のレビュー・感想・評価

でらしね(2002年製作の映画)
2.0
でらしねとはフランス語で根無し草の意。
奥田瑛二の芸術家としての顔を堪能できる。というか自分の才能を観てほしい作品なのではないだろうか……。
ホームレスの絵描きである水木譲司(奥田瑛二)が橘今日子(黒沢あすか)と出会い、生涯に一度の大作を作成することになり、そのまま肉体と精神を昇華させていく。が、あまりにも水木に都合のいい話、つまり監督の都合のいい話になってしまっている。ホームレスながらも画家としての才能溢れる男。酒の飲みすぎと不摂生な生活からボロボロの体になり、ひとりの女と出会うという、絵に描いたような芸術家としての人生を送る物語だ。その発想があまりにも安直だし、水木がそんな生活を送っていることにも切実さがない。生ぬるい芸術家を見ているようなのだ。そして物語そのものは単純でわかりやすいのだが、登場人物の苦悩や心の機微が見えてこないのだ。重たい題材のわりに迫るものがなかった。

黒沢あすかに関しても『六月の蛇』のときとは違って、そこにミステリアスな女の性が感じられない。生活臭もなければ神秘性もない。ただ一人の女。モデルとして体をさらけ出す人間としてのイメージが本作では強い。ラストあたりで水木と体と心を交わらせるシーンがあるのだが、そこでもそこにはただ、肉と肉の絡み合いだけしか感じられないのだ。

奥田瑛二の絵画作品(とくにダンボールに描いた作品)はエグイ構図だが、その中にどこか子供っぽいかわいらしさがある。