前方後円墳

さらば、わが愛 覇王別姫の前方後円墳のレビュー・感想・評価

さらば、わが愛 覇王別姫(1993年製作の映画)
3.0
近代中国での時代の流れに翻弄された京劇役者の蝶衣(レスリー・チャン)と小楼(チャン・フォンイー)の物語。映像や物語自体は古風で地味ながらもその苦味は相当なものだ。
基本は男でありながら、同姓の小楼を愛してしまった、蝶衣の愛憎劇だ。小楼が娼婦の菊仙(コン・リー)と結婚したあたりから、その愛憎劇は泥沼の道を辿っていく。50年という道のりを170分程度の時間で描き切るのだが、その間、不幸と波乱の連続で中だるみはない。愛憎の中、間に挟まれる京劇の舞台は非常に絢爛で美しいものがあり、そのメリハリもある。
愛する者からの裏切りという絶望的な映像にとにかく胸が苦しくなる。レスリー・チャンとコン・リーの苦悶の表情はあまりにも苦い。激動の中とはいえ、その救いようのない心の拠り所のなさが映像中に漂っているのだが印象的だ。最後まで幸せなれなかった3人をただ終劇まで見守るだけになるのだが、そこには苛立ち、怒り、悲しみなどなく、ただただ諦念のみである。逃げることも、変わることもなかった蝶衣の愛には偽りがないことだけが、目の前に大きく、重く映し出されているのを感じるだけなのだ。