Kamiyo

秋日和のKamiyoのレビュー・感想・評価

秋日和(1960年製作の映画)
4.2
1960年 ”秋日和”監督 小津安二郎
脚色 野田高梧 小津安二郎

おやじ3人の余計なお世話である思惑がことごとく外れながらもきちんとハッピーエンドになるというすばらしい
コメディ。
最後に「おもしろかったじゃないか」と一連の事態を振り返るおやじたち(佐分利信、中村伸郎、北竜二)には、
思惑通りに行かなかったことがおもしろかったのです。

小津映画と言えばこの人、原節子が母親役として
成熟した美しさを魅せ、
若手美人女優の司葉子が、娘役を演じています。
娘の結婚、母の再婚を背景に、
夫を亡くした母と娘の、お互いを思いやる気持ちと
心の機微を繊細にも描いた。

映画全体の雰囲気は二年前の「彼岸花」と同様、
ユーモアとペーソスを湛えたほのぼのとした
仕上がりになっていて素晴らしい。

観て気づいたのは、主役のふたり
秋子(原節子)とアヤ子(司葉子)より
冒頭に秋子の夫の七回忌の法事に集まった
旧友三羽烏や娘の親友百合子(岡田茉莉子)の
存在のほうが目だって魅力的だった。
旧友三羽烏を演じるのは
間宮(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北竜二)
の三人である。

彼らは秋子の亡夫の親友たちで、母娘を陰日なたなく
支え続けているという存在である。
彼らは早逝した旧友の娘アヤ子(司葉子)の
結婚を心配するが、だがアヤ子は母親秋子が
一人になることが気がかりで結婚に二の足を踏んでいる。
アヤ子(司葉子)を嫁がせるにはまずは
母親秋子からというお節介が田口の
不手際からこじれてしまう。
だが、結局このことが原因でちょっとした騒動が
持ち上がり、ひょうたんから駒のような按配で
娘の結婚が決まっていく。

旧友三羽烏の佐分利信、中村伸郎、北竜二の三人の女性品定めの会話が軽妙かつ卑猥に富んでいておかしい。
「ハマグリは初手、夜中は赤貝」などという川柳を寿司屋の客にそれとなく振らせておいて、しっかり競うように
して彼らにもハマグリと赤貝を注文させるという。
今では分かる人も少ないだろうが
まあスケベオヤジたちの集まりなのである。

未亡人秋子(原節子)はマドンナ的存在で今でも
綺麗な秋子に其々が少しばかり惹かれている様子を
それとなく匂わしながら、
それを酒の肴に面白く可笑しく、やり取りが展開
されていくが、ちょっと猥談っぽい所もあって
この会話がなかなか楽しめる。

登場する人物で一番今回光っているのが
百合子役の岡田茉莉子。もう、全てが今風なのです。
彼女の言動だけが今の時代から抜け出たような
明るさがあるのです。
母親の再婚話に反発して相談にやって来たアヤ子に、
「なにさ赤ん坊みたいに」と軽くいなす。
彼女は下町の寿司屋の娘で、ちゃきちゃきの江戸っ子肌、母親を早くに亡くし、いまの母親は後妻であるが
ほんとうの親子のようなざっくばらんな態度で
接している。
そんな彼女が言うだけに説得力がある。

百合子は親友アヤ子の母秋子の話不手際の為に
トラブルの原因を作った旧友三羽烏に会いに行く。
中年オヤジたちを一喝する百合子の存在がピリリとした
アクセントになっている
彼女がオヤジ達を凹ませる場面は秀逸だ。
佐分利信と中村伸郎が北竜二への返答に困り
二人がパイプを持て遊ぶ。
旧友三羽烏をあっさりと手懐けちゃうのも凄い(笑)

三人トリオの中では小津映画の常連とはいえどちらかというと地味な役回りだった北竜二がいい味を出していて目立っている。終盤猪口を傾けながらしみじみとした表情で「ダシに使われただけだな」と嘆息するシーンなどに人の良さが現れていた。

さて娘を嫁がせる親の哀感というものは父と母で変わるものでもなかろうが、父がひとり取り残されるラストの方により悲哀が溢れるのは何故だろう。
この映画でもラストシーンは原節子がひとりアパートで寂しげに佇むシーンで幕となるのだけど、笠智衆がひとり残される場面と明らか悲哀のボルテージが違うように思える。それだけ娘と父という関係は特別なものなのかもしれない。

女性の慎ましさも上手に描かれている。
母親秋子の言う、麓から山に登るなんて懲り懲りという
台詞も凄く良かった。
娘アヤ子が母の再婚を聞いて怒って出て行って
しまうけれど
アヤ子が百合子に諭される。あんたは勝手すぎないかと。
自分には好きな人が居て、どうして母にだけ
厳しくするのかと。そんなの勝手だと。
そのあと、自宅に帰ったら母親がアヤ子に
好きな人が出来たと言ってくれるのを待ってた。
とても良い人らしいって聞いて1人で喜んでたのに
と言う。
母と娘の愛情が眩しくて私も目頭が熱くなりました。
司葉子の美しさと言ったらオードリーヘップバーン
みたい。

OLの端役で登場する無名の岩下志麻もファンには見所。
台詞も無いですが、劇中で何度も登場する

泣いたり笑ったり、昭和の映画を満喫したみたい
Kamiyo

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