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悪魔のいけにえのKuutaのレビュー・感想・評価

悪魔のいけにえ(1974年製作の映画)
4.6
古典的名作。ファーストコンタクトまでの不気味な雰囲気作り(第1幕)、最初の殺人からのホラー的な疾走感(第2幕)、過剰な恐怖がコメディっぽさに変質しつつ、祝祭感すら感じられるラスト(第3幕)。全編にわたり「不条理」の乱れ打ちながら、無駄のないタイトな構成だ。

16mmフィルムの粗い映像が「昔どこかで起きた悪夢」って感じの程よいフィクション感を出していてハマっている。音響も凝っている。虫や重低音。発電機。若者の叫び声が左右のスピーカーをごちゃごちゃにしながら響き渡り、襲撃シーン中はチェーンソーが鳴り止まずに緊張感を保つ。低予算ながら美術も素晴らしい。墓荒らしやアルマジロの意味不明さ、なぜか落ちている歯など不穏さ満天だ。

冒頭、「あ、こいつヤバいやつだ」とだんだん分かる車内の会話劇から引き込まれる。存在理由がよく分からない洗車担当。エロい女性陣。テキサスの?ねっとりとした嫌な空気がフランクリンの汗から漂ってくる。

変な金属が庭の木にぶら下がっている、明らかに普通じゃない田舎の家の雰囲気。じりじりと生身の人間の狂気に近づいていく演出が良く出来ている。そして、衝撃のレザーフェイス初登場。引きの絵での唐突な襲撃が、ドキュメンタリー感もあってかなり怖い。

だがだんだん恐怖が麻痺してくると、レザーフェイスのキャラクターを愛でる視点に変わってくる。サリーの叫び声に驚いてよろけるレザーフェイス。ドアを切り刻んで兄に叱られるレザーフェイス。「運ぶの手伝ってー」と頼まれ、引っ越しで冷蔵庫を運ぶかの如く爺さんを持ち上げ階段を降りるレザーフェイス。ディナーに合わせたマスクとジャケットを用意するレザーフェイス。爺さんに手際よくトンカチを持たせる介護レザーフェイス。自分の腿を切っちゃって呻くレザーフェイス。悔しさをダンスで表現するレザーフェイス…。楽しい。暗闇をとことこ走るレザーフェイスと、ひたすら叫ぶサリーのコンビ芸も見逃せない。

店に逃げ込むとチェーンソーの音がピタッと止まり、一瞬で空気が変わる。上手い演出。サリーが肉を見つめる時の妙な白目が強烈。兄のこまめに電気を消す倹約家な一面に、一家の大黒柱感が滲む。普通はあの場面でわざわざ電気消すシーンなんか入れないわけで、レザーフェイスも同様だが、定番からちょっと外した演出がキャラクターの魅力を増している。

爺さんに血を吸われる気持ち悪さのピークでサリーが気絶すると、突然家の外景から月のショットに飛ぶのも意味不明で面白かった。お兄ちゃんの箒ばんばんがやたら強い。トラック運転手が「何事か」と車外に出てくるが、レザーフェイスを見た瞬間無言で引き返すのも笑った。40周年記念版をNetflixで。92点。
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