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別離のsacoのレビュー・感想・評価

別離(2011年製作の映画)
4.0
中東の映画を見ても信仰や戒律それに伴う社会情勢などが実際にピンとこなくて、漠然とした理解しかできず一歩引いたところでの感想しか沸いてこなかった。
ところが、この【別離】はドスンッとストレートに胸に落ちてきた。
イランというと、複雑で社会的にも難しく危険でキナ臭い・・。そんなイメージの中でも、あたりまえに日常的な営みがあり、人々が抱えている問題は身近な私たちと根本的に変わりがないという事がリアルに伝わる。
オープニングの離婚調停のシーンからの緊張感は、最後まで途絶えることはなかった。
単なる夫婦の離婚話ではないだろうとは予想していたけれど、予想を上回る内容の濃い心理サスペンスかつ人間ドラマで非常に見応えがあった。
アスガー・ファルハディ監督の細やかな脚本と見事な演出の賜物。世界中で絶賛されたのには至極納得させられる。

テヘランに住むシミンとナデルは、11歳になる娘とアルツハイマー病の父親と4人家族。娘の将来を考え国外に移住しようとする妻シミンに対し、夫ナデルは病気の父を残してはいけないと意見が対立。夫婦は離婚の危機に立つ。妻が家から出て行ったので、ナデルは家事と父の介護の為に南部に住む貧しい家庭の主婦ラジエーを雇う。ある日、娘とナデルがアパートに帰ってみるとラジエーは居ず、ベッドに腕を縛られた父親が瀕死の状態で倒れていた・・・・・。

事態はそこから思わぬ方向へと動き始める・・・。
物語の随所に調停所でそれぞれが審議されるシーンがある。その度に見ている側も問題を自分に置き換えて考えさせられてしまう。けれど、問題は善悪で割り切れるものでもなく、複雑に絡み合い容易に結論は出せない。中盤からは上級サスペンスの様相を呈し画面に織り込まれた巧みな伏線に、はたと気づかされる時、ちょっとした快感さえ覚える。
後から思えば、論争の焦点、事実を目の当たりにしているはずの父親が問題発生から一言も発しなくなるところも上手い。
深層心理を浮き彫りにする印象的な台詞も多い。母親の車で家を出て行く娘にかけたナデルの言葉「パパが間違っていると思うのならラジエーに示談金を払うからママを連れて来い」も、その直後の娘の選択でいろんな気持ちが解り印象に残る中の一つだった。娘や子どもに答えを求めるシーンが結構辛い。

ところで、あの盗られたお金ってどうなったんだろう・・・・。

2012年5月 宮崎キネマ館にて
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