このレビューはネタバレを含みます
【離婚裁判と傷害事件:争点の二重構造】
2022年40本目
家庭裁判所で離婚の許可申請を得たい妻シミン。
「夫は良い人です。でも、苦労して得た出国の権利を無駄にはできない。一緒に来てくれないのなら離婚するほかない。」
その横で納得のいかぬ面持ちの夫ナデル。
「アルツハイマーの父を思うと、この国に留まりたい。彼女は逃げたいだけ。」
決着つかぬまま程なく家を出ていく妻と、残される夫と娘。
進展しない離婚裁判の最中、父親を1人にできぬとお手伝いの女性ラジエーを雇う。
アルツハイマーでトイレにもいけず粗相をしてしまった彼を、信仰心の強い彼女は彼の身体を洗う事への抵抗を持ちつつ実行した。見てぬうちに徘徊してしまうおじいちゃんの面倒に、彼女の疲弊はピークを迎えていた。
ある日ナデルが帰ると父親がベッドに縛り付けられ、ラジエーは外出していることに気づく。怒りくるったナデルはラジエーを家から突き飛ばし、それによってお腹の中にいた子供が死んでしまったと殺人事件の容疑にかけられる。
ラジエーの夫もなかなか異常なもんで、短期な性格の上、粘っこい。
こうしてナデルは二つの裁判と絡み、争点が複雑化していくことになる。
妻が不在なことへのイラつき。
アルツハイマーの父親を介護する虚しさ。
その間に挟まれ、親権の選択を余儀なくされる娘。
離れたらもう、二度とくっつくこともなく、互いの心は引き離される。
妻との別離。
話せない父親との別離。
気遣いと希望が打ちのめされてしまう娘と父親の別離。
嘘をつく事でもうあとには戻れなくなってしまうのだと。人間関係と宗教を絡めながら、とてもシビアな内容にまとめている。