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別離のHKのレビュー・感想・評価

別離(2011年製作の映画)
4.1
イランのアスガー・ファルハディ監督の長編5作目。
ここにきて一気に唸らさられました。
これまでの作品は本作を撮るための予行演習だったのかと思えるくらいです。

離婚の危機を迎えた夫婦とその娘、その家庭にアルツハイマーの祖父の介護のため雇われた家政婦とその家族の複雑な人間心理が描かれます。
小さな嘘が大きな不信感を生み、沈黙があらぬ憶測を生んで悲劇を拡大していきます。
原題のペルシャ語の英訳は“Nader and Simin, A Separation”(ナダとシミン、別れ)
ナダとシミンは主人公夫婦の名前。

冒頭の離婚裁判はデビュー作の『砂漠にさまよう』。
結末を委ねるラストは『美しい都市』。
中流階層の家庭と家政婦との関係は『火祭り』。
ミステリー要素は『彼女が消えた浜辺』を思い出しました。

そして、日本とは大きく違うイランの法制度だけでなく、宗教観がこれまでにも増して強く描かれます。
直情的で暴力的な家政婦の夫でさえ信仰心が厚いのが印象的。
そして、今回は子供からの視点もクローズアップされました。
さらに、新たな要素は“復讐”。

主要キャストには、過去作品で観た顔がチラホラ。
前作の『彼女が~』では突然の暴力の被害者となる優男(シャハブ・ホセイニ)が本作では真逆の暴力キャラを演じており、迫真の演技でしばらく同じ役者と気づかず。
今回は私のお気に入りのタラネ・アリドゥスティは残念ながら出演しておりません。
主人公夫婦の美人の奥さんを演じるレイラ・ハタミはニコリと笑えば絶対可愛いハズなのに一度も笑わないのがもったいない。
夫婦の娘役は監督の実の娘(たしか『美しい都市』にも出てたような・・・)。

本作はベルリン国際映画祭の金熊賞・女優賞・男優賞の3冠で前作の受賞を更新。
さらに2度目のアカデミー外国賞を受賞しています。
filmaの視聴マーク数も前作の約5倍にアップ。

ほとんどの登場人物に心からの笑顔のシーンは無く、後味も決して良くはありません。
それでもエンド・クレジットのタイミングと余韻は秀逸。
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