こたつむり

容疑者Xの献身のこたつむりのレビュー・感想・評価

容疑者Xの献身(2008年製作の映画)
3.3
♪ ねえ、うまいことやって来たけれど
  涙も流れない ねえ、涙も流せないよ

“分かりやすい”映画だと思います。
原作の良さを十二分に引き出そうとしていますし、そして、それは成功しています。

…が。
底が浅いんですよね。
折角の素材が凡百な料理になってしまった…喩えるならば、高級牛肉を牛丼に仕上げた感じ。勿論、それも悪くないんですが“牛の味”をダイレクトに感じたかったのも事実。

丁寧な筆致なんですけどね。
ミステリとしては正統派。手掛かりの与え方もフェアです。というか、もっと反則気味でも良かったと思います。座布団を取るような展開もありますが、あまり盛り上がりません。

また、物語を描くことに腐心したからか。
人間性を掘り下げる描写は皆無。
なので「何故、その選択肢に至ったのか」に説得力がないんですよね。

だって、いみじくも“天才”と称されるなら。
それに相応しい言動が欲しいじゃないですか。知識量の多さや、難しい数学に挑むことだけが“天才”の意味だとしたら、あまりにも安易だと思います。

やはり、天才は凡人には図れないもの。
凡人から数十歩先を歩んでいる描写は必須だと思います(映画の半券のエピソードは良かったんですか、それは露払いであり、その先に本命が欲しかった)。

まあ、そんなわけで。
及第点には達しているものの、心に爪痕を残さなかった作品。でも、娯楽としては正しい方向性なんでしょう。大切なのは簡単に日常生活に戻れることですからね。

最後に余談として。
観賞後にウィキペディアで知ったのですが、原作はいわゆる“本格論争”に巻き込まれた模様。僕は未読なので正確なことは言えませんが、映画から類推するに十分に“本格”だと思いました。

また、モラル的な部分についても。
覚悟を示す行動としては悪くはないと思います。虚構の中に道徳を持ち込んでも仕方がないので。どちらかと言えば、映画に足りなかったのは“覚悟に至る道”じゃないですかね。
こたつむり

こたつむり