Fitzcarraldo

ウォーク・ザ・ライン/君につづく道のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

3.8
カントリー・ミュージックのアイコンであるJohnny Cashと、二度目の妻となるJune Carterとの愛の軌跡を描いたJames Mangold脚本・監督作。

妻となるジューン・カーター役を演じたReese Witherspoonが第78回アカデミー賞(2006)主演女優賞を獲得。

All Johnny Cash Vocals Performed by JOAQUIN PHOENIX

All June Carter Vocals Performed by REESE WITHERSPOON

吹き替えではなく、この二人は自身で歌っているのだが、ジューン・カーター本人よりリース・ウィザースプーンの方が正直ウマイと思ってしまった。役柄と美声も相まってか非常に魅力的にも見えた。


"inside the walls of folsom prison"(1951)という映画が、アメリカ空軍に入隊していた時に、慰問として上映されるシーンがある。日本未公開。


エルヴィスを発掘し、ロックンロールの一翼を担った男であるSam Phillipsが出てきてビックリする。時代を考えたら当然なんだろうけど、ジョニー・キャッシュを熱心に追っかけて来なかったので、ここでSun Recordsが出てくるとは…

○サン・レコード
オーディションを受けるジョニーキャッシュ。

Sam Phillips
「そこまででいい。途中で悪いが他に歌える曲は?残念だがゴスペルは売れない」

ジョニー
「ダメ?」

サム
「売れないものはムダだろ?ゴスペルは売れないんだ」

ジョニー
「歌い方が悪い?」

サム
「両方だ」

ジョニー
「どこが悪い?」

サム
「説得力がない」

ジョニー
「神を信じてないと?ちょっと聞いただけで俺の信仰心を疑いやがった」

サム
「分かってるはずだ。その歌は耳にタコだ。何百回も聞いてる。今のと同じ節回しでね。いいか、よく聞け。トラックに撥ねられ死ぬ直前に一曲だけ歌う時間がある。聞いた人間が絶対忘れない一曲。この世で君が感じたことを神に伝える曲。それを聞けば君という人間が、すべてわかる歌を歌え。今の歌は、ジミー・デイヴィスがイヤってほど歌ってる。それとも何か違う曲を?君の心から湧き出す曲。人はそういう曲に耳を貸す。そういう曲が本当に人を救うんだ。それは信仰とは何も関係ない。自分を信じるかどうかだ」

手厳しい…けど、採用する側からしたら当然の意見なんだろうなぁ…

ひとりで何かを作る時に、それは自分でいいと思って始めてるわけだし。初めはモノマネだし、人真似だし、それでも何かを自分も生み出したい、作りたいという純粋なモノ作りの精神でやってるから、得てして、自己評価は高くなりがちである。客観的視点がどうしても担保しにくいのは当然であろう。

そこに超ビジネスマンで客観的視点の持ち主に評価を仰いだら、これだけボロクソに言われてしまうのかぉ…恐ろしい。ここまで言われたら面と向かってストレートに言われたらもう立ち直れない…。


○ツアー
Jerry Lee LewisとRoy Orbison出てきた!しかも歌ウマイと思ったら、彼らは吹き替えだった。

Elvis Presleyも出たぁ…割と似てる。

こういう人たちが物語となって動いているのを見ると、それだけで何か嬉しい気持ちになる。



○モーテル・ジューンの部屋
ジューンとジョニー

ジューン
「この本をあなたに」

カリール・ジブランの『預言者』を渡す。

ジューン
「いい本だから」

ジョニー
「預言者?」

ジューン
「あげるわ」

ジョニー
「そんな…」

ジューン
「読んだ本はあげるの。心が軽くなるから」

こんなこと言われたら好きになっちゃう。
これは、あげる本のセンスもあるが…ロクでもない本をあげると言われても…


少年時代から憧れていた女性と、実際に同じステージで歌えて、セックスできて、結婚できるって…どんだけのアメリカンドリームなのよ!

しかし反面、最初の嫁さんと子供を、途中から無かったことかのように描く、その無視した態度には、かなり引っ掛けるものがあるが…

ジェームズ・マンゴールド監督は"Ford v Ferrari"(2019)でも、そのふしがあった。見せるところを絞るかわりに、その他をないもののように描くのは得意分野なのかもしれない。

あまりにもバサッと、いきなり無かったことに、なるので、余計に目立ってしまうと思う。少年時代から憧れ続けていたそのピュアな気持ちは、一度目の妻にナゼ向けられなかったのか?それだけ、好きだったなら、初めから結婚なんかしないで、ずっと独身でジューンを想い続けとけよ!と思ってしまうのは穿った見方なのかもしれないが、素直にそう思ってしまう。


不遇時代、無名時代を過ごした女性と、そのまま添い遂げる人と、一方で売れたら遊びまくって、その女性を捨ててしまう人と、この強烈な2トップは、今後も変わることはないのだろう。


オープニングとラストで披露される刑務所の中でのライブを収録したアルバム"At Folsom Prison"(1968)はビートルズを抜くほどのヒットというエンドクレジットをみて、これは買わなくては…
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