乙郎さん

メランコリアの乙郎さんのレビュー・感想・評価

メランコリア(2011年製作の映画)
3.5
おそらく、落ち込んでいる時に最も効くのはこういった映画だろう。LVTはこれまで周囲の人からは狂人と思われる人間に潜む真実について、主観的な視点で描いてきたが、近年は客観的な視点に移行している。それゆえ、1回目では読み取れなかった部分もあったが、2回目ではスムースに読み取れた。LVTは、うつにこそ真実が潜むと考えているのではないか?だから、社会的な成功の具体例とでも言うべき結婚式において主人公は奇行に出る。幸せになることは様々な欺瞞から目をそむけることで、それに拮抗するのは主人公なりの誠実さでは?
主人公はそういった欺瞞にいち早く気づいてしまい、その歪みを引き受けるしかなかった。それがうつ症状。しかしながら、惑星メランコリアというかたちで世界の欺瞞が牙をむいたときに最も自分を保っていたのが、いままで欺瞞を引き受けてきた主人公だった。このメッセージの是非はともかくとして、落ち込んでいる時ってこういった徹底して救いのないメッセージが逆に救いになることはあるよ。むしろこの構造がわかってくれない人たちへの不意打ちにも思えてくるものだ。これは僕にとっての精神安定剤ともなりうるべき作品なのかもしれない。
あと思ったのが、この映画は手ぶれカメラの客観的視点を要しているようで、実は全部主観なんじゃないかということ。それは瓶の中の豆の数がヒントになっているような気がする。だからこそ、この映画の中で秘密めいた会話をするシーンにぞっとするような感触を覚える。
乙郎さん

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