ninjiro

アメリカ、家族のいる風景のninjiroのレビュー・感想・評価

アメリカ、家族のいる風景(2005年製作の映画)
4.2
don't be a stranger…

三文芝居はもう十分だ。

何も産み出さない怠惰な、窮屈な暮らし。
気付かず抱え込んだ荷物を全て清算して、
新しいブーツを履こう。

生まれた時、何も持っていなかった。
最初の旅立ちの時、全て棄てて身一つだった。
人は時に、遠くまで行く必要があるからだ。
それがいつの間にか重たくまとった暮らしは、
何の為だったんだろう。
人生のやり直しが難しくなってくる頃、ドブにはまった時に、やっと気付く。
気の遠く成る程、無駄な時間を過ごした事に。

棄ててしまえば、結局全てはゴミと灰だ。

心に立つ何処か確かな場所への道標だけを残して。


「パリ・テキサス」で叶わなかったサム・シェパードの主演、あれから随分長い時間が経ち、全ては変わってしまった。
それでも老いたシェパードの演じる美しい邂逅は、様々な思いを作品の中に閉じ込める。

女優達が素晴らしい。
ジェシカ・ラング、サラ・ポーリー、エヴァ・マリー・セイント。
自らのエゴに翻弄され、見苦しい程に苦悩し、しかし何も出来ない男達と対照的に、彼女達は深い悲しみや愛情を慈しみ深い表情の下に隠し、人生を包み込む。

ひたすらに棄てる人たち。
やがて心は静かにその形を変える。

そして、ヴェンダースはアメリカを去った。
この作品に、彼の愛したアメリカの風景を残して。
ninjiro

ninjiro