むっしゅたいやき

質屋のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

質屋(1964年製作の映画)
3.5
シドニー・ルメット監督作品。
NYのハーレムで質屋を営む、或るユダヤ系男性の物語である。

過去ナチス強制収容所で生き延びた経験を持つ主人公・ナザーマンの灰色の生活と、頻発する収容所での体験のフラッシュバックをモノクロームでソリッドに表している。

本作は個人的に大好物である、"抑えていた感情や思いが発露するカタルシス"を感じさせる作品である。
にも関わらず点数が低いのは、感情が発露する要因が全て外的であり、主人公ナザーマンが受動的である点にある。
これはナチスに苛まされた無力感を現しているので有ろうが、何分行動力皆無で女々しく感じられる。

また恐らく今後彼の感情表現が顕になろうとも、ナザーマン自身を取り巻く環境は変わらない点にも鬱屈を感じる。
即ち、ロドリゲスはハーレムに君臨した儘であろうし、メイベルは搾取を続けられる。
ナザーマンは社会の片隅から、更に隅へと移動したのみの様に見えてしまうのである。

更に、評価の高い劇伴も私には頗る煩く感じられた。
苦悩を現すシーンにすらジャズが流れ、彼のトラウマすら軽佻浮薄に見えてしまう。
独り夜のNYを彷徨うシーンは素晴らしいが、残念乍ら格好良さと精神的解放の二兎を追い、其れを成し得なかった中途半端さが残る作品である。
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