むっしゅたいやき

春との旅のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

春との旅(2009年製作の映画)
4.3
不器用な老人と孫娘の、優しさに満ちたロードムービー。
小林政広。

幾度か秋冬に、作品の舞台となる北国を独り、旅した事がある。
海岸に連なる鰊小屋のうらぶれた風景や、鳴子の宵闇のペーソス、コンクリ打ちっ放しで昭和から時間が止まった様な線路沿いのアパートと、其れを照らす冬の白く浅い北国の陽射し、其処に身を寄せ合う様にして生きる人々─、そんな彼の地のアウラを体感した事が無ければ、本作は退屈に、また春の選択も不可思議に思われるであろう。
然う云う意味では、観客を選ぶ作品である。

本作は、仲代達矢演じる頑固者の老人・タダオと、其の孫娘・春との道行きを主軸とし、苦難を抱え乍らも懸命に生きる人々と、それ等の姿を見る事で己自身を見詰め直し、成長して行く春の姿を横軸として紡いだ物語である。
通常ロードムービーでは、移動時のカットを繋げることでシークエンス間のインターバルとして行くが、本作ではこの点にタダオと春との食事風景及び会話が据えられており、老人と孫娘との関係性が丁寧に描かれる。
主演の二人は言わずもがな、脇を固める役者陣にも秀爺に菅井きん、淡島千景や柄本明、美保純、香川照之と、熟練の演者が揃っており、表情、台詞の調子・拍子と間を含めた自然な演技には唸らされた。
秀爺に由る、「俺ぁこの秋から、ホームだ」と云う際の、からりと晴れつつも寂しさの滲む表情、香川照之の仕草を抑制した演技からは、二人の言外の感情が読み取られ、胸に迫るものがあった。
一方で、淡島千景の述べる“端から見た正義”は、作中に在りながらも本作へのアンチテーゼとなっており、複層的な構成を齎している。

本作は後味に、温かさと一抹の寂寥とを残す作品である事に疑い無いが、残念な点も残る。
先ず、タダオの人生を変える程のドラスティックな決断が、春に由る不用意な一言により齎された、とされている事。
次に、春の成長、決意の変遷が大変見え辛く、此れが為に父・シンイチへ会いに行くと云う宣言が、やや唐突に見える点。
最後に、二人の言葉に、希に東京弁のイントネーションが混じる事である。

評価に当たり、以上の点を加味してスコアを点けている。
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