むっしゅたいやき

過去のない男のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
3.8
記憶喪失と自己認識。
アキ・カウリスマキ。
カウリスマキ作品常連、マッティ・ペロンパーが出演していないので後回しにしていた作品である。

アキ・カウリスマキは、一種の天才である。
彼の作品は、毎度社会風刺と物語性を両立させ、且つ鑑賞者へはっきりと其のシークエンスを明示する。
即ち本作で言うならば、間に暗幕を置いたカットを多用してぶつりと場面転換を図り、また素人にかなり不自然で大袈裟な演技をさせる前半は“社会風刺”と“現実”を、ペルトラや、上目遣いが印象的なカティ・オウティネン(カウリスマキ常連)の自然体で内面を能く表した演技に代表され、場面転換にもフェードイン等を使用する中後半は“物語性”“夢と理想”に力点を置く。

物語は、記憶喪失の男の旅路を表したものである。
ストーリー自体に目新しさは無いが、前述の風刺により、我々はカウリスマキに問いを投げ掛けられる。
「名前も自己を表す物も一切無く、且つ見知らぬ場所・人の間にいた場合、如何に自己を証明するか」。
言い換えるならば「名前や性別と云った属性を取り払った、“自分”とは何者か」。
然う言う意味では、本作は“自分を発見する”旅路の物語とも言えよう。
偃鼠飲河と思えるが、己の本分と居場所を見付けた男に、羨望を覚える作品である。
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