shibamike

暗黒街の弾痕のshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

暗黒街の弾痕(1937年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

我々は普段、法の下に生活を送っているが、社会が拵えた法律の枠内に収まり切らない人達もごくたまにいる。そういう人達はいわゆる"無法者"と呼ばれるであらう。無法者には無法者の信念があるらしく、その信念が法律の枠内にいる我々をぶるぶる震わせて感動させる場合があると思う。本作はまさにそうである。

自分が高校生の時に、英語教育界隈で有名らしい人が我が校に講演をしにきたことがある(名前とかまったく覚えていないが)。
全校生徒が体育館に押し込められて、くそつまらない話を延々と聞かされたと思うのだが、1つだけ覚えている話がある。講師が最後に全校生徒に向かって質問してきた。「"人生は一度きり"みなさん、これを英訳できますか?」答えた生徒がいたかどうかは忘れてしまったが、その講師曰く「英訳の正解は1つではないので、色々な英訳があって良いのですが、今日はこの英訳を紹介させてもらいます。"You Only Live Once"」
はえーそうなんだー、かなんかを思った記憶があるのだが、今日、本作を観て上映開始直後のタイトルアップでまさに「You Only Live Once」が出てきて、「あんのクソ講師!パクりかよ!(決め付け)」と記憶のフラッシュバック。


"男と女の命懸けのロマンス"。
切ない。ひたすら切ない。「ラブロマンスとか女・子どもの観るもんでしょ。こちとら成人男性ですから。暗黒街の男根ですから。」と日頃思っている自分であるが、こんな骨太ハードボイルドロマンスには頭が下がる。


テイラー(ヘンリー・フォンダ ゴリラ)が3年の刑期を終え、出所する所から映画は始まる。出所を待ちわびていたのはフィアンセのジョー(シルヴィア・シドニーたん)。
罪を償い、今度こそまっとうに暮らしていこうと前向きな二人であるが、世間の厳しい風が前科者テイラーに容赦なく吹き付ける。

テイラーが就職先である運送屋の社長と喧嘩して、「こんな会社やめたらぁ!」と見栄を切ったあと、後日「すみません、自分が悪かったです…何とかもう一度チャンスを…!」と頭下げたのは立派だと思った。それでもチャンスを与えなかった運送屋社長もしょうがない気もする。

物語が大きく動くのは、ある銀行殺人強盗の容疑者としてテイラーが逮捕され、有罪死刑になるところ。
死刑なんてまっぴらゴメンだ!と激怒したテイラーは人質を取って、脱走を試みる。
この脱走の攻防中にテイラーの無実が証明されるのであるが、ここのシーンの心情描写が憎らしいほど面白い。監獄所長、神父、テイラー、人質、みんなの気持ちを想像してしまい、うぅぅううう!と唸りたかったが、劇場なので、我慢した。
殺された神父の役割も意味深長で震える。

結局、脱走に成功したテイラーはジョーと落ち合う。ここから、物語は骨太ハードボイルドロマンスになる。自分の頭の中ではうっすらと佐良直美の「世界は二人のために」が始終流れていた。

序盤に登場する「カエルのつがい」の話の意味はこういうことだったのか、と震えの上にさらなる震え。究極に求め合う二人は世界と対峙することを選んだ。ここらで、自分はジョーの捨て身的な献身ぶりに涙が眼球の堤防をチョロチョロこぼれる段階。

そして、クライマックス。世界は二人の独立国家を許してくれなかった。警官からのマシンガンの銃撃により重症を負ったジョーを抱き抱え、テイラーは山道を逃げる。ジョーが息絶え絶えに呟く。「今度生まれても、またアナタと生きたい…」(うろ覚え)
ジョーが息絶えた後、銃声が鳴り響き、テイラーも絶命。
神父の祝福で映画は終わる。

映画ラスト1分で眼球の堤防が決壊し、目が洪水。嗚咽も出そうだったが、ギリギリ耐えた。
帰り道、タイトルのYou Only Live Onceとジョーの辞世の言葉がリンクしている気がして明治通りでも目が洪水。
命を掛けて互いに支え合い、求め合った二人。
邦題の"弾痕"とはジョーとテイラーにぶち込まれた鉄砲弾のことだろうか?

「ジョー」というと矢吹ジョー、辰吉丈一郎、ジョー・ストラマー、キングジョーとカッコいい人間とロボット怪獣しかいないが、本作のジョーも自分の中でカッコいいジョー認定(初の女性ジョーだじょ)。

本作にヌーヴェルヴァーグのニヒルを加えて、湿っぽさを抜き取れば、アメリカン・ニューシネマの「俺たちに明日はない」になると思う。ネットを見たら「ボニーとクライド」をモデルにした初めての映画が本作とのことで、そら似てるわ。ラングしゃん、パネエ!


約1ヶ月に渡って鑑賞してきたフリッツ・ラング特集が、自分の予定ではとうとう終わってしまった。今週の頭くらいから喪失感の気配があったが、最終日当日を迎えた今日、喪失感とともに絶望感。高校球児が甲子園の土を持って帰るように、自分も記念にヴェーラの椅子を持って帰りたい。今後、何を楽しみに生きて行けばいいのか。
面白くないのも、どうでもいいのも、面白いのも色々な作品があったが、言えることは作品内容の幅広さであろう。漫画界で言う手塚治虫感あるのではと思った。手塚治虫はブ男だから不倫とか恋愛難易度高いの描いてなさそうだけど。

ありがとう、フリッツ・ラングしゃん。また会う日まで、フリッツ・ラングしゃん。プリッツとラングドシャを食べながら暗黒街の男根。
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