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アメリカン・ヒストリーXのmomokaのレビュー・感想・評価

アメリカン・ヒストリーX(1998年製作の映画)
4.8
観賞後、何とも言えない苦しさで、しばらく涙が止まらなかった。こんなに素晴らしい作品に、まだ出会っていなかったのかと思うと、映画の世界は本当に奥深い。

白人至上主義を掲げる、ネオナチのメンバーのリーダー、デレク(エドワード・ノートン)は、ふとしたことがきっかけで、黒人の青年を殺害してしまい、刑務所に入ることになる。時を経て、デレクは出所することになるが、再会した弟のダニー(エドワード・ファーロング)もまた兄と同じ思想に傾倒していた…。

「怒りは君を幸せにしたか」
デレクは刑務所の中で、様々な経験をし、これまでの自分のひどい差別行為や過激な思想を省みるようになる。そんな時に、黒人である恩師から語りかけられたこの言葉。人間誰しも怒りを感じる瞬間がある。しかしながら、それを周り(本作だと白人以外の人間たち)にぶつけても何も解決しない。

デレクは肌でそうしたことを感じ、出所後には、自分と同じ道を弟に辿らせては決してならないと、必死で弟を諭して、過激な思想の渦から救い出そうとする。そうした中での、あのラストはとても衝撃的だった。デレクとダニーの二人の姿が頭から焼き付いて離れない。

貧困の連鎖や差別の連鎖、こうした負の連鎖は本作が制作された時代から何か変わっただろうか。一人でも多くの人が幸せだと感じることができる世界になっただろうか。思わずそんなことを考えてしまった。

エドワード・ノートン演じる、デレクの刑務所に入る前と後の変貌ぶりや、ひとつひとつの表情に心をグッと掴まれる。出所後、胸に彫った大きなハーケンクロイツの刺青を鏡で見ながら、彼は何を思っただろう。また、エドワード・ファーロング演じる、退廃的だったダニーが、兄の出所を機に、様々なことに思いを馳せて、兄弟をテーマとした宿題のレポートを書きながら、涙を目に溜めるシーンもとても印象的だった。

過去はモノクロ、現在はカラーでそれぞれのシーンを映す演出もそれぞれの登場人物の想いを表現しているようで、とても良かったと思う。全体的に静かな音楽や、ラストの風景のみの映像も好みだった。


“憎しみとは耐え難いほど重い荷物
怒りにまかせるには人生は短すぎる
我々は敵ではなく友人である
敵になるな
激情におぼれて愛情の絆を断ち切るな
仲良き時代の記憶をたぐりよせれば
良き友になれる日は再び巡ってくる”


心に重く響く、一見の価値ある素晴らしい作品だと感じる。ぜひ、心が安定している時に、ご鑑賞オススメです。
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