半端ではない面白さ。誰も幸せにならない話が大好き（見せ方にもよるけど）な自分にとってはこういうの大好物。俗で下品な言い方をすれば、最高の不幸エンタメ。
不幸の倍倍ゲーム。強盗計画の誤算がこんなことに....の描き方が「そりゃそうなるよな」と納得出来得るものばかりで、それでいてやり過ぎな映画的表現も観せてくれるバランス感覚の全てが琴線に触れ最高であった。
各々の心情や行動動機に不可解な点が無いのに語りすぎることも無く、そもそものストーリーテリングの手腕が凄い。
編集も良い。群像劇であるから基本的には3人の視点を時系列を行ったり来たりしながら見せていくが、このおかげで事件が多面的に浮かびあがり、かつ一切観客を暇にさせない上質なサスペンスに仕上がっている。
愛された/愛されなかった で分断された兄弟ひいては家族。元々歪な繋がりで生きていた人たちが、「両親の宝石店を強盗する」センシティブな事件をきっかけにその歪さを増幅させていく。
イーサン・ホークの巻き込まれヘタレ役も板に付いていて良かったけれど、フィリップ・シーモア・ホフマンとアルバート・フィニーが至高。絶望の一途を辿るのは登場人物全員同じだけど、注目すべきは誰が完全な狂気まで達してしまうのか？という点で、その顛末は前述の愛の一件と並べて見るととことん真っ当だったように思えた。路地に消えたあいつのその後の人生はどうなるのか、というところも含めて。
トラジコメディと言ってしまうのはもしかしたら乱暴かもしれないが、それでも喜劇的な側面は確実にある。金が必要だから強盗しよう、というバカな思考を止めろという話なので。
素人目にも分かる杜撰な犯罪計画をさもシリアスであるかのように（実際本人たちは真面目なのだけど）映していることからも、そういう犯罪者をしっかりバカにしている。
思春期の青さ・若気の至りが爆発して犯罪に走り 目も当てられない惨状となった『アメリカン・アニマルズ』と比べると、職に就き家族や恋人もいる いい歳した大人が引き起こすお粗末な犯罪はまた違う目も当てられなさがある、とはっきり分かり面白かった。
