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ゾディアックのtanayukiのレビュー・感想・評価

ゾディアック(2006年製作の映画)
3.8
1968年から1974年にかけてサンフランシスコを恐怖に陥れたシリアルキラー、ゾディアック(黄道十二星座を意味する)。「This is the Zodiac speaking.」で始まる犯行声明を頻繁にマスコミや警察に送りつけ、犯人しか知り得ない情報や証拠品だけでなく、ナゾの暗号文まで自作して捜査陣を翻弄、世間を騒がせること自体を楽しむ愉快犯的な要素も強かったため、それに釣られたシロウト探偵やアマチュア暗号解読家が次々と現れ、捜査は混乱を極めた。

その最たる人物が本作の主人公ロバート・グレイスミスで、サンフランシスコ・クロニクル勤務だとはいえ、毎日時事ネタをおもしろおかしく描く風刺漫画家にすぎなかった彼が、ゾディアック事件に興味を抱き、その沼にずぶずぶとハマって足抜けできなくなっていく様子が克明に描かれる。なにしろ本作の原作の1つが、グレイスミスが執念でまとめた『ゾディアック』という本なのだから。

過去に容疑者は何人かいたものの、いまだに犯人を特定できない未解決事件が題材なだけあって、本作を見終えた印象もスッキリとはほど遠く、いかにも後味が悪い。全体的に抑制されたトーンで淡々と事実をたどっていくような、デヴィッド・フィンチャーらしからぬ演出も、本作の飲み込みにくさを助長してる気がする。

グレイスミスは知りたい欲求が高まりすぎて、新婚子持ちなのにもかかわらず新聞社を辞めてしまうし、同僚のスター記者だったポール・エイブリーはアル中になって地方紙に去り、担当刑事のデイヴ・トースキーは何度も犯人を追い詰めたと心躍らせては筆跡鑑定やDNA鑑定で覆され、心を折られ続けた結果、次第に本件から距離を置こうとするようになった。そうしないと正気を保てないと本能的に悟ったのだろうと思う。

「ミレニアム」でハリエット事件の担当だった老モレル警部が、迷宮入りした担当事件を刑事は生涯忘れない、あのときこうしていたらという後悔が一生付き纏うと語っていたが、まさにゾディアック事件はトースキーにとっての「レベッカケース」であったはずだ。その苦みはいくら噛んでも飲み下すことはできないまま、いつまでもそこにとどまり続ける。

グレイスミスの狂ったような情熱にもかかわらず、真犯人はいまだ藪の中。つい最近もこんな記事が話題になった。犯人とされたのは劇中ではまったく触れられなかった人物だ。

→ 未解決連続殺人「ゾディアック事件」50年越しに犯人特定か、民間調査グループが主張 https://www.mashupreporter.com/cold-case-team-claims-zodiac-killer-identified/ @mashupNYより

自分は知りたい欲求が人一倍強いタイプだという自覚があるけど、ターゲットを永遠に答えの出ない未解決事件にすることだけは避けたいと切に願う。いたずら好きの愉快犯のために人生棒に振りたくないからね。

追記:
「THE BATMAN」のレビューに本作の名前がちらほら出てきたので久しぶりに見直してみたけど、暗号を送りつけるゾディアックとなぞなぞを送りつけるリドラーに共通点があるってことなのね。ゾディアック事件は「ダーティーハリー」にも影響してるみたいだし、そっちも見てみようかな。

△2022/03/17 Apple TV鑑賞。スコア3.8
△2016/09//08 iTunes登録。スコア3.2
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