円柱野郎

ゲゲゲの女房の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

ゲゲゲの女房(2010年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

「貧乏でも命は取られないよ」と笑う水木しげるに対して、貧乏に対して布枝の困惑した様子が描かれる序盤、これが地に足ついたキャラクターとして二人にリアルな空気をまとわせているね。
ただ、ともすれば場面説明を台詞無しの情景や構図で行ってしまう演出は、観ていて良くできていると思う反面、地味にも映る。
質入れのシーンにしても、間借りしていた金内が出ていくシーンにしても台詞の説明は一切無い。
でも地味でもちゃんと分かるんだけどね。
それに音楽がほとんど無いのもその地味さに追い打ちをかけるのだけど、よく聴くと、ずーっとノイズのような音が乗っているのに気付く。

最初は同録時のノイズ?何て思ったものの、明らかに意図して音が大きくなったり小さくなったり…。
時には雨のような、水が流れているような音にも聞こえるんだけど、これが“人間以外の存在の音”と気付くとまあ不思議なことに地味と思われた場面が賑やかだったことに気付かされました。
そして、あまりにも自然に人間と並列に妖怪が描かれていたために気付かなかった描写を思い返し、“見えないものに寄り添われている”という世界観の表現に感心。
(それを確信したのは中盤の火消し婆だけど、序盤のぬらりひょんは溶け込みすぎで気付かなかったw)
質に入れていたモノが孵ってきているというラストの描写も、大仰な説明もなく、情景だけでそれが分かるようになっているし映画的な工夫を感じます。

キャスティングも個人的には気に入っていて、布枝役の吹石一恵も良いし、水木しげる役の宮藤官九郎の雰囲気がまた良い。
昭和の貧乏漫画家であり、飄々としている様にも見えるのだけど、作家としての矜持を感じさせる雰囲気もあって良かったですね。

そうそう、劇中で明らかに現代の東京駅や調布の駅前が映る場面があるんですわ。
最初は予算が無さ過ぎて開き直ったのかと憤慨もしたんだけど、最後まで観ると、制作側の意図的な演出であると理解出来る気がします。
でもなんだろう、この劇中の世界自体が現代と並行した昭和30~40年代の幻のような、そんな感じなんだろうか。
なんとも不思議な感覚。
ラストも控えめに、それでいてしっかりと分かるように描きながら静かにエンドロールに移っていくけど、その地味さが良い感じでした。
円柱野郎

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