円柱野郎

関心領域の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

第二次大戦中の、ある一家と邸宅。
何不自由なく生活する彼らはアウシュヴィッツ強制収容所の所長一家だった。

この映画は半分どころか7~8割が音で出来ている。
目に映る生活の向こう側から聞こえてくる収容所の音。怒声・銃声・その他諸々。
観客はその音の正体も、そこで何が起きているかも理解している。
しかし登場人物たちの関心事はそこではない。
彼らの関心事は彼らがこの生活にしがみつけるかどうかなのだ。
主人公(の妻)にとってはもはや「アウシュヴィッツ」というのは理想の場所ですらある。
「関心領域」という言葉自体は大戦中にナチスがつけたアウシュヴィッツの収容所を中心とした地域の隠語のようなものらしいが、翻ってこの映画ではその地名から抱くイメージに対するギャップ、「登場人物たち関心の関心はどこにあるのか」という意味が付加されているようにも思う。
彼らは自分たちの生活にしか関心がないのだが、しかしそこで行われていることに対して理解していないわけではない(ユダヤ人の金品を手に入れ、歯で遊び、川に流れる灰の意味するところを知っている)ところが恐ろしい部分でもある。

この作品の8割は音だと前述したけれど、それを印象づけるのはオープニングの長い暗転だ。
視覚を奪うことで観客に「聴け」と促しているわけだね。
そして劇伴はほとんど無く、あっても不協和音のような音。
劇中の環境音がその世界のこちらと向こう側を表現している。
エンディングロールでは叫びともうめき声とも聞こえるような音の洪水が観客を襲い、彼らの「生活」が何の上で成り立っていたのかを想像させる。
これは背筋の冷える様な体験だった。

終盤、「ヘス作戦」を下命された所長が一人階段を降りるシーンで突然吐き気をもよおす場面があり、突然脈略もなく現代のアウシュヴィッツ収容所の博物館の様子が映し出される。
正直面食らったが、これは映画的な説明描写というよりは所長の幻視と理解すれば良いのだろうか。
彼の関心の外にあった現実が、その未来が彼に襲いかかった、そんな場面だったのだろうか。
円柱野郎

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