円柱野郎

オッペンハイマーの円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

マンハッタン計画を推進し、「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマーの伝記映画。

カラーで描かれたオッペンハイマー視点の「分裂」と、モノクロで描かれたルイス・ストローズ視点の「融合」、その2つの時系列を軸にさらに回想でオッペンハイマーの半生が語られていく。
2本の軸と回想によって場面が入り乱れるので、観ている側の理解を追いつかせるのにパワーが要る。
それでも思ったよりは判りやすくなっているのは、カラーとモノクロの対比と場面転換での繋がり(キーワード)がハッキリしているからだろう。
登場人物も非常に多く一見すると混乱の種にもなりそうなのに、印象に残るキャラの見せ方やフラッシュバックの使い方が上手いので「ああ、あの人か」とすぐに理解できるのも良い。
これまでも時系列を弄った映画を撮ってきたノーラン監督だが、本作でもその手腕はいかんなく発揮されていると思う。
というか、こんな「物理学者の内面」の様なテーマをこの構成で描ききって、しかもサスペンスドラマに仕立て上げているのだから、もう流石という他にはない。

物語的には"原爆を作った男"がどんな人物だったのかに興味が行くが、作品のテーマとしては「理論とその実現に対する高揚」そして「その結果がもたらす絶望の幻視」という科学者の苦悩が描かれていたようにも思う。
そしてその物語を補強するのが原爆(核"分裂"爆弾)推進と水爆(核"融合"爆弾)推進に関係する対立、というわけだ。オッペンハイマー視点を「分裂」、ストローズ視点を「融合」としているのはそういう意味も込めてのことだろう。
オッペンハイマーが赤狩りの時代に疑いを受けて聴聞され、その黒幕であるストローズ後に公聴会で…と違う時間を並べて間接的に対決させている構図は実に興味深い。
そしてストローズの私怨の一因ともなった"オッペンハイマーとアインシュタインとの会話"が、そんなストローズの想像とは関係のない、科学者としての破壊のビジョンについての絶望であったというところにとても皮肉を感じる。
円柱野郎

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