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囚われの女のotomisanのレビュー・感想・評価

囚われの女(2000年製作の映画)
4.0
 偏見かも知れないがフランス男なら岡惚れした娘をつけ回すぐらい朝飯前かとも思うが、これがどうして、ベントレーに座乗したシモンの無表情、底意の知れない空気を纏って始まると新手の「コレクター」によるプルースト翻案かとも見え、さすがにこんな時ばかりは自分で運転するのだ。
 そんな行方見定まらずはあっさり裏切られて尾行対象のアリアーヌは既にシモン方に寄宿中でしかも女ともだちアンドレが監視役として配備済み、シモン方に就職中?の周到ぶりにそりゃあなるほど「Captive」だ。
 それならとっとと出来上がってしまえばよさそうなんだが、この金持ちシモンもおばあさまの財政的囚われの下にあると見え、さらにラシーヌ研究の名目下、花粉症の拘束下の囚われ振り、ついでに屍姦願望にでも取り付かれてるのか?表情も定かならぬ模様ガラスで仕切り越しの睦言に始まって、夜伽のプロローグを突如ブレークしておばあさまをインサート、続きは睡眠中のアリアーヌへの屍姦紛いの本番突入寸前と実にまどろっこしい。
 ところが、その寸前で覚醒途上のアリアーヌが発する一言に事態は静かに転動し始める。シモンと意識せず向けた「アンドレ」のひとことが一切を萎えさせ、覚めて吐かれる嘘よりも、寝覚めの無防備で顕れる本心、不意に吐かれる真実が気になりだす。きっとそれがシモンの存在の程を教えてくれる。ここらあたりから青白きシモンの唇にさす朱の気が気になり始める。
 アリアーヌの実像を捉えきれないシモンがアリアーヌを拒絶できず抱き止めも叶わぬまま二人だけの未決状態で現実逃避のグランドツアーを図ろうとする矢先の夜の海にアリアーヌが消えてゆくのを想像を超えた事としてシモンが受け入れるのかどうか。ひとり沖から帰還するシモンが海から何者も連れ帰れないのを傍観するのが寒々しく忍びがたい。

 しかしである。あの最後、シモンを回収する小艇の無名の乗員にこそ確かな現実を覚える。そのように閉じる事を選んだ監督のどこか無慈悲な態度に、その前日、シモンが求めたアリアーヌの唇、あの瞬間あのまま二人して最期を遂げるのを否認した事が追懐されるのだ。
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