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バンデットQのninjiroのレビュー・感想・評価

バンデットQ(1981年製作の映画)
4.0
かつて日曜洋画劇場で初めて「バンデットQ」を観た日、まだ鼻水どころか流れ出る涎すらも止められない程ボーっとした餓鬼だった私。
そんな私はその翌日から、録画したビデオテープが擦り切れる程、夢中で何度も繰り返しその世界に没頭した。
それまで毒気のないファンタジーしか知らなかった私に本作は、初めて「大人が繰り出す本気の皮肉」というものを教えてくれた。
それから「未来世紀ブラジル」を知り、パイソンズを知り、もっともっとと更なる毒気に進んで自らを晒すことにより、いつしか純真だったあの日の子どもは、よくいる捻くれた憎たらしい子どもへと変貌していった。

これらの変遷は私の嗜好を、デフォルト0°の状態から徐々に180°まで変えることとなり、あれほど心惹かれ、そもそもこの変遷への足掛かりを作ったはずのテリー・ギリアムの世界からも、遂には完全に背を向ける形になった。
「バロン」以降、発表される作品を観るにつけ、「?」、「なにか違う...」と首をかしげ、その度にファンとしての情熱を失い、「ブラザーズ・グリム」以降はもはや観ることすら止めてしまった。
このDVDが発売された際、少し醒めた感覚ではあったが、半ば義務のような感情に囚われ、その良き日の思い出を買った。
いつものように棚に並べたところで、その商品が私に果たす役割は概ね終わったようなものだった。

ここまでが観る前に書いた前置き(長い長い)。
そして、本当に久方振りの再会。
・・・・・・・・・・
…うわぁ…面白かった…(涙)
もっともっとこの世界に居たい、もっと一緒に冒険がしたい!子供の頃、面白い映画を観た時に皆一様に懐くであろうあの感情が戻ってきた。
これはあれだ、ドキドキ・ワクワクというやつだ!
話の筋としては、創造主の持つ「時間の地図」を盗み出した6人の小人達が、創造主から逃れるためタイムホールをくぐってある子どもの部屋へ。彼を巻き込んで更に様々な時代を渡る盗賊として旅に出る、というもの。
ターゲットが子供ということもあって、今みればパイソンズに見られるような間断のない四方八方の毒気は殆どない。
むしろ、パイソンズメンバーが出てくる一部のシーンは俄かにドタバタコントの様相を呈し、そこで披露される子供向けの真っ当なジョークたちは微笑ましくもある。
マイケル・ペイリンは殆ど添え物のような扱いだったが、流石にジョン・クリーズがロビン・フッドの格好で堂々と登場した時にはグッと来た。笑ったな〜、あの盗品を配給する時の下り。

本作の大きな魅力はビジュアルイメージだった。
ただ、この時代の中途半端に古い映画にありがちな、撮影技術の進歩に伴う陳腐化が懸念された。
しかしそれは杞憂だった。
もちろん多少の古さは否めない。しかし、観進めて行くにつれ、各時代のエピソードに合わせた美術や文字通り「手作り」の手間暇と工夫に溢れる特撮が色褪せず心を掴んでいく。
そしてゴヤやマグリットの絵画を想起させるような絵作りのセンスはやはり素晴らしい。
大人心は垣間見える創意工夫に釘付けになり、
子供心はそのセンスオブワンダーが掻っ攫う。

壮大な冒険のラストは、その余韻でホクホクになっている子供にもわざわざわかり易く、氷でキンキンに冷やした水を頭からぶっ掛けるような不条理劇がビシッと決まる。

ああ、素晴らしい。
やっと一回りして戻ってきた気分だ。
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