小津の初トーキー作品(1936年)。信州の片田舎から、老母が東京に息子を訪ねてくる話。
なにしろ昭和初期の作品なので、録音状態も悪く、フィルムも傷だらけ、くわえて当時の日本語がまた聞き取りづらい。戦後の小津作品を鑑賞するのとは別種のハードルがある。
さらに、小津がそのスタイルを確立したと言われる「晩春」(1949)以後の作品とくらべて、脚本演出、いろいろとまだ洗練されていない節もある。序盤は投げ出そうかと思うくらい退屈だった。
しかし話の構造は「東京物語」のひな形と言ってもいいほど似ているし、中盤あたりまで観てくると、今日的なテーマにも気付かされる。
戦後民主主義のなれのはてで育った僕らは「職業に貴賤はない」と教わってきたので、大学出て美人のカミさんもらって夜学の教師やってりゃじゅうぶんじゃないかとか、トンカツ屋だって立派な仕事だと思うわけだけど、そこらへんは時代の違いなのか。
(山田洋次の「学校」はこの作品へのアンサーだったのかな?と思った)