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出来ごころのzhenli13のレビュー・感想・評価

出来ごころ(1933年製作の映画)
3.8
情に厚いがモラルや倫理感に欠け悪い結果につながる行動をしてしまう喜八(坂本武)は、ジョン・カサヴェテス『こわれゆく女』におけるピーター・フォークを彷彿とさせる。
ショットが非常に安定しており、『非常線の女』や『その夜の妻』などアメリカ映画を意識した作品のような実験性は見られない。他の小津作品にも登場する打ち上げ花火のショットはこの作品が最も効果を上げていると思った。

大日向傳が粗野で無骨な超イケメン。斎藤工に似ている。しかし真のイケメンは突貫小僧こと青木富夫である。彼の身体性たるや!貧乏で男やもめ坂本武の面倒も見ているが、賢いなかに自分の気持ちを押し込めて我慢している、という設定が存分に生きる。おどけるときの決めポーズが好い。
富夫が制服の鉤裂きを言い出せずそっと手を置く動作。その動作は飯田蝶子が繕う手に引き継がれる。しびれる。
泣きじゃくりながらも、学校の宿題をするべく教科書をめくる富夫。振り返って父喜八の頬に手をやる瞬間に泣いた。父の涙を拭う小さな手。「なぜ指は五本あるか知ってるかい?」富夫の科白をそのまま真似する喜八の手には幼さを残す小さな爪と丸っこい指が並んでいる。

喜八が飛び込んだ海の水のきらめきはジャン・ヴィゴの『アタラント号』に匹敵する。
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