きんゐかうし卿

トゥルーマン・ショーのきんゐかうし卿のネタバレレビュー・内容・結末

トゥルーマン・ショー(1998年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

 



『本作に由来する心の病が実在する』

自宅にて鑑賞。究極のリアリティー・ショーをコミカルに描く。時折POVめいた隠し撮り風の映像をインサートしつつ何も知らされていない主人公の日常とこれを見守る視聴者と番組の作り手と云う三点の視点で進行する。日常に突如挟まれるスポンサーのCMを宣う「買い替えるなら“エルク・ロータリー”」 「新製品のこの“モココア”を飲んでみない」等と云う如何にもな科白に吹き出した。ただテンポにバラつきを感じた。特に丁寧に描くそれ迄とは打って変わった中盤~後半にかけては雑な上、急ぎ足気味に思え、バランスを欠いた印象を受けた。65/100点。

・インタビューを受けるE.ハリスの“クリストフ”も云っていた通り、“メリル・バーバンク(ハンナ・ジル)”のL.リニーが“トゥルーマン・バーバンク”のJ.キャリーと仲違いをし、彼の元を去るシーンは観てみたかった。予告されていた新たなロマンスの相手として職場の横の席に配属されてきたH.シャンツの“ヴィヴィアン”との件りにも興味が湧いた。相思相愛でありつつ密かに主人公の解放を目論むN.マケルホーンの“ローレン・ガーランド(シルビア)”の存在や役割が余り活かされておらず、蛇足的で微妙に映ったのは残念。

・近年、SNS等の普及により度々問題視されている認知承認要求、及び行動原理に基づくコマーシャリズム等が盛り込まれている。ただ実際にJ.キャリー演じる“トゥルーマン・バーバンク”の様な言動を繰り返せば、被害妄想に端を発する偏執的な統合失調症か離人症等の診断を受けるであろう。本作以降、精神医学会では日常がカメラ越しに監視されていると云う被害妄想の一種に“トゥルーマン・ショー妄想 "The Truman Show delusion"”、或いは“トゥルーマン症候群 "Truman syndrome"”と云う呼び名が附けられる事となった。

・当初、“クリストフ”の役はD.ホッパーが当てられており、実際に撮影も行われたが、たった一日で自ら降板したらしい。後に本作とよく似たプロットを持つR.ハワード監督作『エドtv('99)』に“ハンク”役として彼は出演を果たした。急遽、E.ハリスが役を引き継いだが、突然の降板だった為、碌な準備期間も無く役に挑んだ。尚、撮影中にE.ハリスは“トゥルーマン・バーバンク”役のJ.キャリーと一度たりとも顔を合わす事が無かったらしい。

・主人公“トゥルーマン・バーバンク”役は当初、R.ウィリアムズが予定されていたが、脚本を書き、監督も予定していたA.ニコルの薦めやC.チャップリンを想起させると云う監督により、J.キャリーへと変更になった。尚、その段階で『ライアー ライアー('97)』の撮影を行っていた為、本作のクランクインは約一年遅れる事になった。

・TV視聴者に“日本人家族”として、ユウジ・ドン・オクモト、キヨコ・ヤマグチ、中村佐恵美の三名がクレジットされているが、壁には「娘/バーバンク メリル/毎日見て/下さい。」 「バーバンク トルーマン/毎日.../二十四時間」と拙い手書きで記されたポスター(掛け軸?)が貼られている。「ラブ・ラブ・ラブ!トルーマン・ショー」と書かれたトレーナーを着て、胸には妖しげなバッジを着け、ショーを見守るこの三人の様は少し某国っぽい印象である。

・設定上、強調されたメタ的な構造を持っている為、エンドロール時のキャストは"TRUMAN'S WORLD"、"CHRISTOF'S WORLD"、"THE VIEWERS"と三つにカテゴライズされ、表記がなされている。本篇上の情報を繋ぎ合わせると、J.キャリー演じる“トゥルーマン・バーバンク”の誕生日は、'66年1月30日となる。物語は'95年に設定されている。

・物語の舞台となる“シーヘブン”の撮影は主にフロリダ州シーサイドにて行われ、エキストラは連日約300人規模で執り行われた。ショー内への闖入者として、クリスマス・プレゼントの大きな箱から飛び出した視聴者(ファン)の男はM.ルーベンであり、彼は本作のアシスタント・アートディレクターを務めている。

・脚本のA.ニコルによれば、本作はP.K.ディックの著作「時は乱れて('59)」にインスパイアされ、多くのアイデアを引用したと云う。更に具体的にM.ジャクソンの日常を想像し、物語を固めたらしい。当初は自らがメガホンを執ろうとし、G.オールドマンを出演させようと構想していた。尚、決定稿に至る迄、少なくとも12回は書き直しを重ねたとインタビューで答えている。亦、劇中劇の『トゥルーマン・ショー』が「シーズン1のサブタイトルは"Bringing Up Baby"」 「エイミー賞を何度も受賞している」等と云った本篇で触れられないバックストーリーも10本は書いた(当初のシナリオでは“トゥルーマン・バーバンク”のJ.キャリーはフィジーではなく、オーストラリアに行きたがる設定だった)と云う。

・ネタバレとして本作は、前述の『エドtv('99)』に酷似しているが、そもそものアイデア自体は『新・世にも不思議なアメージング・ストーリー2('88)』に収録されているP.バーテル監督の『シークレット・シネマ "Secret Cinema('86年4月6日米国TVにて初放送)"』とソックリである。管理された環境下での日常生活としては『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー('84)』や『ダークシティ('98)』、『シグナル('14)』等にも似ている。

・脚本がA.ニコルの手を離れた後、監督としてS.ライミやB.デ・パルマ、T.バートン、T.ギリアム、B.ソネンフェルド、S.スピルバーグ等、様々な候補を経て、P.ウィアーに落ち着いたと云う。中でもD.クローネンバーグはテスト迄撮ったが、最終的には辞退したと伝えられている。

・鑑賞日:2019年7月27日(土)