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デッドゾーンのsymaxのネタバレレビュー・内容・結末

デッドゾーン(1983年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

"…goodbye…i love you…"

私の中で、スティーヴン・キングの小説を映画化した作品の中で、今だに本作を越える作品は無いと思っているキング原作映画の最高傑作です。

名前同様、ごく平凡な教師だったジョニー・スミスは、不慮の交通事故により、5年もの間昏睡状態でした。
その間、恋人のサラは、別の男性と結婚し、子供も生まれています。

ジョニーにとっては、昨日の事なのに、目が覚めると5年も経ってて、恋人が他の人と結婚し、子供がいる現実は、そうとう堪えますよね?
自分の気持ちは変わらないのに、現実に置いてけぼりですから…切なくて悲しくて堪りません。

ジョニーは、事故とその後の昏睡から、仕事も恋人も健康な身体も失ってしまいますが、その代りに触れた人の過去・現在・未来が見えてしまう千里眼の力を持ってしまいます。

ストーリーは、稀代の殺人犯フランク・ドットを炙り出す話、地元の有力者の息子クリスを救う話を経て、有力上院議員候補グレッグ・スティルソンとの対決へと展開して行きます。

ジョニーは、終始、千里眼の力を疎ましく思い、その力によって、周囲から好奇な目で見られる苦痛から、隠れるように生活していたのですが、スティルソンが将来大統領となり、核ミサイルを発射するビジョンを見て苦悩し、主治医へ「もし、ヒトラーが台頭する前のドイツに行けたらどうするか。」と問い、「躊躇することなくヒトラーを殺す。」との答えで暗殺を決意します。

これって、ジョニー目線からでは正義の行いですが、側からみれば、ただのテロ、この二面性もしっかり描かれていて、物語に深みがあります。

ジョニー演じるクリストファー・ウォーケンは、終始、今にも壊れそうなガラスのようですが、時々見せる笑顔が悲しくて、儚くて、まさにジョニーそのものでした。

ちなみに、キングは本作映画化に当たり、ジョニー役として推薦したのが、ビル・マーレイだったのは有名な話ですが、こういうセンスがキングヲタ的にはたまりません。

ビル・マーレイ版デッドゾーンもちょっと見たいかも?

一方、グレッグ・スティルソンを演じたマーティン・シーンは、エネルギッシュに嫌な奴を演じていまして、その傍若無人ぶりは、トランプ大統領そのまんま…映画が将来を予見しているようで…トランプさん、核ミサイルを撃たないことを祈ります…

色々経験した後に今作を見ると、サラの行動は一見、ロマンチックなようですが、とても残酷だと思います。

なんとか気持ちを立て直そうとしているジョニーの前に現れて、「5年は待ち過ぎたんじゃないの」と自ら服を脱いでしまう…かと言って、サラは離婚してジョニーと再婚する訳でもなく、元の生活に戻る…これでは、ジョニーを過去に縛るだけで、ジョニーにとっては地獄…でも、ジョニーは優しくて、心からサラを愛しているので、優しい笑顔をサラに向けるだけですが、その笑顔は、物悲しく、切なくなります。

今作を監督したのは、奇才デヴィット・クローネンバーグ。

肉体と精神のぐちゃぐちゃメタファーな作品ばかりの監督ですが、今作は抑えた演出で、展開もほぼ原作通りではあるものの、所々でクローネンバーグらしい所も見え、手堅い手腕を見せ、本作を成功させています。

本作をステップに、監督最大の成功作「ザ・フライ」が完成します。

「デッドゾーン」は、キングの初期小説の舞台となっていた架空の町「キャッスル・ロック」が初めて出てきた作品ですが、この「キャッスル・ロック」は他に「クージョ」、「スタンド・バイ・ミー」、「サンドッグ」、「ダークハーフ」等出てきます。

特に、"忌まわしい事件"として各作品に出てくる殺人鬼フランク・ドットは、小説「デッドゾーン」にかなり詳しく出ています。

また、今作にも出てきたバナーマン保安官は、「クージョ」にも出てきます。

「キャッスル・ロック」を舞台にした作品にはリンクする登場人物や話があり、イースターエッグ感覚で探しながら読み、見つけるとニヤリとする実にマニア的な作りがあって、本当にハマってしまいます。

「キャッスル・ロック」は、「ニードフル・シングス」という小説で町自体が破壊されてしまい、以降の作品の舞台となることはありません。

今、パッと挙げた作品の殆どが映画化されていますので、小説・映画共に読み・見る事をお勧めします。

小説「デッドゾーン」は、ジョニーだけではなく、同時進行的に、グレッグ・スティルソン、フランク・ドットの人生や思いなんかが、これでもかというくらい詰め込まれていますので、映画を見て気に入った方は、小説の方もぜひお勧めします。
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