Cisaraghi

彼岸花のCisaraghiのレビュー・感想・評価

彼岸花(1958年製作の映画)
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これも娘をヨメにやる親の寂しさを描く映画かと思いきや、意外にコメディ仕立てで笑えた。田中絹代は能面のような印象の謎の女優だったのだが、浪速千栄子と会話している田中絹代はなかなかに愉快を感じているように見えた。でも、他の場面の顔に貼り付けているような笑顔はやはりどこか少し怖い。山本富士子は日本美人というイメージしかなかったのに、こんなおもしろ関西弁女優だったなんて驚き。画面の奥で手を振って袖に引っ込む大和撫子らしからぬ場面がお気に入り。
 浪速千栄子と田中絹代の他にも、浪速千栄子と佐分利信、山本富士子と佐分利信の、チャカチャカしたどすどす京都弁とそれを受ける東京弁のやり取りがオモロい。そして、三人の着ている普段着物がとてもお洒落。

この頃に比べると今は一般に父親の家庭での権威は失墜したと言っていいと思うが、大企業のエリートシニアサラリーマン層のホモソーシャルな関係は、この映画で描かれるそれと今もさほど変わっていないのではないかと思える。佐分利信みたいな嵩高く横柄な重役、どこにでもいそう…。

それにしても、着て帰った衣服をその場に脱ぎ捨てる佐分利信、それを拾い上げて片付け、後ろから和服を着せかける田中絹代、まるでダウントンアビーの一場面のようなあまりにもくっきりと様式化された主人ー従者関係で笑ってしまうくらい。その際の田中絹代の流れるような一連の無駄のない所作は見もの。拾い上げた上着をパサッと床に落とす場面はさらに見もの。

小津映画の嫁ぐ娘の役は型に嵌まっていて、もはや誰がやっても同じような気もするが、やや大人っぽく比較的自立的で非保守的なこの役は、そこそこ有馬稲子に相応しいと言えるのかも。

せっかくの笠智衆の詩吟なのに、よさがよくわからないのが残念…。
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