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巴里のアメリカ人のCisaraghiのレビュー・感想・評価

巴里のアメリカ人(1951年製作の映画)
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苦手意識があるジーン·ケリー、『踊る大紐育』では悪くなかったので、有名なこちらも観てみることに。

花の都パリに住む、踊る街角の絵描きジーン·ケリー。セットで拵えたパリもそれなりに趣があるし、子供たちと歌う“I Got Rhythm”をはじめ、“Embraceable You”“By Strauss”など、途中までは文句なく楽しいミュージカル。踊る白髪の老パリジェンヌもカワイイし、アンリを演じるジョルジュ·ゲタリさんの細かくて伸びのあるビブラートも素晴らしい。

問題シーンは飛ばして次へ。

一人コンチェルトをユーモラスに演奏していたのは、コンサート·ピアニスト、作曲家、指揮者、作家、ラジオやTVのタレント、コメディアン、俳優とマルチに活躍したオスカー·レヴァントさん。そんな才人にもかかわらずショボくれたピアニスト役が似合うレヴァントさん、けっこう好き。もちろん、ショボくれているだけじゃないのは、このコンチェルトやミロに対する‘I know you are’という辛辣なセリフが証明している。

最後は18分近く、フランスの有名絵画の数々をセットにアレンジした長大かつ絢爛華麗な舞踏絵巻で、完全に“An American in Paris” のミュージック·ビデオと化している。ハリウッドが、ガーシュイン/ジーン·ケリー=モダンダンス/ハリウッドの巨大映画資本という超強力なアメリカ製三種の神器を恃んで、芸術の都パリに果敢に挑戦!巨費が投じられただけあって、アメリカにしか作れないハイブロウとハリウッド・エンターテイメントをミックスした圧巻のMVだった。ドラマの結末さえMVのひとコマのよう。モチーフになっている絵は、デュフィ、ユトリロ、ルソー、ゴッホ、ロートレックだそうだ。
 
ジーン·ケリー登場シーンのからくり部屋のような凝ったアパートの一室、美術学校の白黒カーニバル仮装パーティーのハンパない物量-というかほとんど人で埋まってた-なども、相当お金かかってそうで見応えあった。あと、ミロのファッションがリッチで素敵。

さて、問題のシーン。パトロンやその友人たちと赴いたカフェで、レスリー·キャロンを一目見るなり場も立場もかまわずいきなり強引にナンパするジーン·ケリーの無礼なふるまいはあり得ず、そのうえ盗み聞いた電話番号を元に勝手に職場に押しかけるとかほとんど迷惑防止条令違反、見ず知らずのヤバ男に簡単になびくレスリー·キャロンも情けなくてすっかり興醒め。よほど中断しようかと思った。この主人公、パトロン・ミロの扱いもあんまりだ。という訳でジーン·ケリーへの苦手意識が強化されてしまった…。
 S’Wonderful”のダンスシーンも、“I Got Rhythm”に負けず劣らず能天気な楽しい場面になるところだったのに…。

バレリーナとしてのレスリー·キャロンさんは悪くなく、顔芸付きの、ルソーとフレンチカンカンのパートがコミカルでカワイくてイチ押し!逞しく肉感的な大腿は、当時椅子を使ったダンスシーンが挑発的と一部で評されたというのがわからなくもない(笑)。演技パートは映画初出演でガチガチだった?この時まだ二十歳にもなってなかったらしいが、髪型が昭和世代には典型的おばさんパーマにしか見えず、かなり損してて気の毒。

音楽や歌やダンスがどんなによくても、ドラマにスポイルされて興を削がれることもある。それもまた映画。でも、この映画の後半の潔さは英断。特に“An American in Paris”は、この時代にこんな贅沢なMVが作られていたことに驚くし、こんなにいい曲だと初めて知った。私のような初級ファンにはステップアップ編として非常に有難いMVで、何度見ても楽しい!ので、我慢して観て大正解だった。

ガーシュインは、作詞家の兄アイラ·ガーシュインと組んで膨大な数のポピュラーソングを生み出していて、この映画の歌もすべて共作。38歳で没したためか、管弦楽曲は「ラプソディー·イン·ブルー」とこの映画の2曲を含め、7曲しか残されていないそうだ。
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