KANA

逢びきのKANAのレビュー・感想・評価

逢びき(1945年製作の映画)
3.8

互いに幸せな家庭を持つ人妻ローラと医師アレックが、罪の意識に怯えながらも不器用な逢瀬を重ねていく…
いわば不倫ものの原点。
なんだけど、観賞後は"不倫"という汚れた感触の言葉は使いたくなくなるほど二人の抑制された愛の姿が美しい。
期待と不安を交錯させながら少女のようにドキドキしてるローラにいつの間にか感情移入してしまってる自分がいた。
行動の度合いは理性でコントロールすべきだけど、恋した時の化学作用は変えようがないもん。

出会いも、その後の進み方もドラマチックにガンガン行くのでなく、あくまでも節度を保ち、会うのはお互い街に出てくる用事のある木曜日だけ。
約束の時間になってもアレックが姿を見せない時のどぎまぎ…
諦めて乗った列車が動き出した時に必死にホームを走ってくる彼の姿を見た時の嬉しさ。
じっくり会えなかったことよりも、彼が自分を追いかけてくる姿を見れただけで幸せなんだよね。
つかの間の恋の夢の絶頂シーンだなぁ…。

冒頭はいきなり2人が別れるシーンなのだけど、観てる側としては状況が「???」
そこからこれまで4週間の回想形式で物語は進み、
ラストに冒頭で観たシーンが再び繰り返される。
同じシーンなのに今度は切なくも美しい色を濃く帯びて見えるマジック。
言葉を交わすこともままならない状況に追いやった傍若無人なおしゃべり友達が憎たらしい〜!
でもそのやるせなさこそが映画としては素晴らしい。
寝てもないのにアレックの決断がとても潔くて、大人の理性と彼女への真の愛を感じずにはいられない。
夫が嫌な男かというと全く違って、とても優しいところがまたポイント。
ローラのいろんな思いを秘めたラストカットはジ〜ン…

デヴィッド・リーンというと『アラビアのロレンス』を始め壮大なスケールのドラマやスペクタクルのイメージが強いけれど、初期にこんな内省的な作品も撮ってたなんて。
古い古いメロドラマと知って全く期待せずに観たところ、予想に反してよかった。
ある意味『カサブランカ』的。
美しい恋はドロドロに汚さず、美しいまま真空パックしておきたいな…
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