キャリア終盤に入っている35歳のボクサーが、八百長試合を知らされていない状態で、若手実力者との熾烈な闘いを繰り広げる。リアルタイム方式(劇中と現実の経過時間を合わせる方式)が採用されている、サスペンス映画。
「どうせ、負けるだろう」と結果を決めつけたマネージャーが、本人に黙ったままで、闇組織主導の八百長試合を受諾。ところが、当人が試合で頑張っちゃうものだから、八百長に関与している人物たちが、目ん玉をパチクリさせてしまう。
控え室に出入りする選手たちの掛け合いが魅力満点であり、ボクシングに打ち込んでいる人間たちの生態が活き活きと描かれている。そして、「勝たれたら困る人たち」を無意識に翻弄しながら、観客を味方に付けていく展開に男のロマンが駆り立てられる。
闘技者の呪縛から脱せられずにいる夫と、その夫の身を案じ続ける妻。これまで築いてきた地位が凋落したとしても、"現状の幸せがあれば、結果オーライ"という幸福論を痛感させられる。本当の意味での慈愛に着地させるところが心憎い。