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キング・オブ・コメディのRenのレビュー・感想・評価

キング・オブ・コメディ(1983年製作の映画)
4.0
おそらく「『ジョーカー』みたいな映画」と形容される映画の中で最も『ジョーカー』に似ている映画(逆)。スコセッシ作品の中でもトップレベルに好き。Disney+でも配信が始まったので是非に。

コメディを題材に扱いながら、その中身は不気味で居心地が悪く狂気的。頭の中が「有名なコメディアンになりたい」「テレビに出たい」「売れたい」だけになって客観視を失い、人気コメディアン・ジェリーに変質的に付き纏うパプキンの一挙手一投足が、全てツッコミどころ満載な恐怖。
元より「喜劇」と「悲劇」は表裏一体の関係性にあるもので、まさにその境界にあるかのような映画だ。

しかし冷静に考えてみると、パプキンは狂気に堕ちた罪人ではある一方で努力の片鱗をきちんと感じられる人間でもあることが確認できる。家ではネタの練習をするし、目標のために強引でもなんでも自分を売り込もうとし、そして実際に 一世一代のスタンダップ・コメディのステージを爆笑の渦に巻き込むことに成功しているので(自分はこのシーンは妄想ではない派)。

ここが『ジョーカー』のアーサーと決定的に異なる点ではないか。アーサーには社会的立場(貧困)や障がいといったハンディはあれど、“コメディアンとして“ 何らかの努力をパプキンのようにしていたか?と。
そう考えるとパプキンは、自分の目標のために冷静さ・客観性・社会性を失っていったという点で、客観視に見てアーサーよりよほど「共感はしないけど意味は分かる」人間だと思ってしまう。
パプキンと共犯関係に陥るマーシャは「好きな人(ジェリー)に付き纏うだけ」の、執着が執着で終わっている人だったため、やはり彼は自分から能動的に行動しているだけ立派ではある(立派ではない)。

後半部分が全てパプキンの妄想なのでは?など、どこまでが現実か論争が続く今作。自分は、途中挟まれる明らかな妄想シーンとラストの展開以外は全て現実なのではと思っている。
ただ一度テレビの舞台で脚光を浴び一夜のキングとなったパプキンにとっては、その後の名声が現実か妄想かなんて関係無いのかもしれない。結局白黒はっきりつけること自体がナンセンスだという結論に帰着しそうだけど、想像するのは楽しい。色々な人の批評を読むのが捗る。

自意識と客観視の段差のことを狂気と呼ぶなら、ここまで観客に狂気を注ぎ込める映画も珍しいし、血を流さなくても狂気は描けると認識できた作品。マスターピースとして一見の価値は十分にあり。

【余談】Base Ball Bearの『文化祭の夜』という曲のMV。今作を知っている人なら思わずニヤっと、そうでない人でもゾッとする演出があるので是非観てみてほしい....。楽曲もムーディーかつファンクでありながらポップさもある完成度でおすすめ。

『Base Ball Bear - 文化祭の夜』
https://youtu.be/pNfSGhU4Y5k
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