★ 「疑ってるうちはまだしも、
それを口にしたら……戦争だろうがっ」
やべー。これマジでやべー。
松本清張先生の原作を野村芳太郎監督が映像化した作品なのですが、全方位に隙が無く、最後の最後まで殴られっぱなしの感覚なのです。もうね。首がガクガクですわ。
これは現代社会への挑戦状ですね。
情報が氾濫する現代だからこそ、容易く思考停止に陥るわけで。本作を否定することは暗黒時代への逆行を意味するのです。「法律とは何ぞや?人間とは何ぞや?」と問いかけてきますからね。
そして、主演の二人の存在感が格別なのです。
保険金殺人を疑われる悪女に桃井かおりさん。
それを弁護する冷徹な女性に岩下志麻さん。
もうね。彼女たちがぶつかる場面は“ガチンコ”。表面は笑顔でも内面は確実に夜叉。草食動物である僕は震え上がるだけでした。
だから、鹿賀丈史さんの飄々とした存在感がどれだけ救いだったか…。やはり、緊張感が常時漂うのは心臓に良くありませんからね。箸休めが必要なのです。私の記憶が正しければ。
まあ、そんなわけで。
ネットに依存する現代だからこそ、観るべき作品。はたして《鬼塚球磨子》は殺人者なのか、それとも違うのか。自分の見識をフル回転させて臨む価値がある作品です。
そして、願わくば。
“先入観や予断で物事を決めてしまう恐ろしさ”を再認識していただけたら…。
その趣旨で言うならば。
法律を感情で覆すような場面は微妙でしたね。
“人間を容易に裁くことが出来ない難しさ”を表したのは理解できますが、作品を消化するためには遵法精神を徹底してほしかった…って、その惰弱な感情がダメなのでしょう。
ちなみに鑑賞後に連想したのは“和歌山毒物カレー事件”。既に裁判は終わっていますが、それが真実なのかどうか…は神のみぞ知る、ですからね。少なくとも「疑わしきは罰せず」の原則は守られている、と信じたいところです。