リコ

スール/その先は…愛のリコのレビュー・感想・評価

スール/その先は…愛(1988年製作の映画)
3.6
1983年、独裁政権崩壊後のブエノスアイレス。
刑務所を出所した活動家の男が、家に帰り着くまでの一晩の物語。現実と幻想の境目が溶けていき、孤独と絶望、残してきた妻との葛藤が甦ってくる。

ソラナス監督の映画は『タンゴ/ガルデルの亡命』を前に見ていたが、今回もアストル・ピアソラのタンゴ音楽がフィーチュアされており、冒頭が橋の風景から始まるのも同じだ。
前者がパリに亡命してきたアルゼンチン人の郷愁を描いたのに対して、こちらはアルゼンチン国内の南北の分断、"南"への憧憬を描いている。
また今回は、様々な出来事が夜の街路で極端なライティングに照らされて起こり、紙くずやスモークがひっきりなしに吹きすさんでいる。まことに演劇的で、どこか箱庭めいた感触がある。

もちろん全編を彩るタンゴの名演は、それだけでも聴きものだが、途中のパーティー場面でロックバンドが演奏するノリノリのニューウェーブに私はハマってしまった。解説によれば、彼は当時のアルゼンチンロックのスター、フィト・パエスで、最近ネトフリで伝記ドラマが作られたほどの有名人なんだとか。パエスはソラナスの次作『ラテンアメリカ』でも音楽を担当してるそうなので、そちらも早く見たい(聴きたい)。
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