このレビューはネタバレを含みます
ずっと心に残っているドキュメンタリー映画を一つ選べと言われたら、やはり今作が挙げられるだろうか。
久しぶりに見ましたが……何回見ても心に突き刺さる感じはまるで変わらないし、急に発動する奥崎氏の暴力シーンではどうしても気分が高揚してしまう。
この奥崎謙三氏、オープニングで「田中角栄を殺す」とデカデカと書かれた自宅兼店舗の店構えや街宣マイカーを見るだにかなりのレベルの狂人だと一括りにされてしまいがちですが……あの悲惨な戦争への憎しみの強さがこの異様な行動力の発露となっているのだから、とにかくまっすぐすぎる「義の人」なのだと分かる。
故国の土を踏む事なくニューギニアで亡くなった戦友の墓を訪ねれば、その老いた母親が哀感漂う調子で「岸壁の母」を墓前で歌い、飢えて死んでいった霊を慰めるために飯盒で白米を炊いて墓前に供え、自作の卒塔婆には達筆な文言を書き込んでいく姿に奥崎氏の人間性の高さを目の当たりにするが、かと思えば逃げ腰の元上官を突き倒して馬乗りになりその老妻や孫が見ている前で殴りつけたり蹴飛ばしたりする。このギャップの強さも奥崎氏の「人間的な魅力や面白み」となって鮮明に映し出される。
奥崎氏とニューギニアに一緒に行くべく、パスポートを作っていた戦友の老母が書いた英文字の揺れ加減と、こんなアナーキーな旦那を一体どのようなメンタリティで支え続けてきたのかと不思議になる妻・シズミ死去のテロップにぐっと来てしまう。