ゴト

ゆきゆきて、神軍のゴトのレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
4.4
冒頭の結納?のシーンだけなら、もう10回以上観ている。新郎もそっち系なのは分かるけど、めでたい席で何て話をしてんだよ、というツッコミを毎回入れたくなる。まあ、平然とそんなことを言ってしまう奥崎謙三だからこそ成り立つ映画とも言えるんだけど。

ドキュメンタリーはノンフィクションなわけだから、過度な演出はしないのが普通だと思うが、この映画はカメラを前にしたことで奥崎自身が自分を演出し始めている。演出する側ではなく、被写体が制作を牽引しているという逆転現象が起きていて、それを為し得てしまう奥崎謙三という存在が、それゆえに作品の中で語られるおぞましい事実よりも際立ってしまっている。

暴力を振るう相手と状況には、自分なりの線引きがあるようだけど、とはいえ人間の作った法律なんぞクソ食らえという、原理主義的な考えの奥崎はやはり法治国家ではクレイジーなんだろうな。

終戦から75年、当時を知る方々は年々少なくなり、あの戦争の悲惨さを語り継いでいくことが次の世代に課せられた責務のように言われるけど、語り継ぐことすら躊躇うような実情があったこともまた、戦争の悲惨さだと言える。その圧倒的な生々しさは汚濁となって観る者の心に雪崩れ込み、あっという間に押しつぶしてしまう。
ゴト

ゴト