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女の座のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

女の座(1962年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

同じ監督の映画を20本近く観てみるとさすがに飽きが来そうなものだが、成瀬の映画はなかなかそうならない。脚本家も同じであることから他作品との類似性は見て取れるのだが、それぞれの作品にはそれぞれの良さがあることもまた事実である。

例えば、嫁いだ先で暮らす女性が夫を亡くし、夫の家族・親戚に囲まれながら肩身を狭くして暮らしているという本作の設定は『娘・妻・母』と共通するものがある。さらに、その女性が夫の親戚の男性に言い寄られるという点では『乱れる』と、舅と姑から自分たちの家族以上に主人公が可愛がられているという点では『山の音』と通ずるものがある。

他の監督の作品との共通点を見る意見もあるようだが、私はこのように成瀬の他作品との共通点を見ることで、彼が常に庶民のありのままの生活を庶民の視点から描き続けてきたことを改めて認識させられた。ゆえに綺麗ごとだけではない、生々しい描写をするのは必然の理で、観賞後にドロドロとした印象を受けるのも納得が行く。それでも彼の小気味良い演出がしつこさを軽減させ、登場人物たちにどこか希望をもたらしてくれるような予感を起こさせてしまう。それこそもしか成瀬自身の人となりだったのかもしれない。

これだけ同じ監督に執着する経験がない私が、これだけ執着していることに自分でも驚いているのだが、この試みを続けていけばまた新たな発見がありそうだ。今からその発見に出会うことが楽しみでならない。
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