ベイビー

アレックスのベイビーのレビュー・感想・評価

アレックス(2002年製作の映画)
4.2
悪魔か天才か
いやいや、あんた頭おかしいでしょ!

ノエさん、相変わらずめちゃくちゃやってんな! なんなんだあの冒頭の悪魔的な描写は…

原題は「Irréversible」。"不可逆"という意味なのですが、オープニングはいきなりエンドロールから始まり、それに準ずるように物語も時系列を遡って事の成り行きを可逆的に辿ります。

「時はすべてを破壊する」

この言葉が示すとおり、この物語の行き着く先は人生の破滅。"時間"はいつも不可逆的で、過ちや後悔も後戻りができません。ノエ監督の「LOVE 3D」や「Climax」同様、「始まりはいつも"ピュア"だとしても、時間が経過すればいずれ全ては劣化する…」と、言いたげな作品でした。

とにかく冒頭は意味が分かりません。分からないまま混沌が続き、ホモ、ホモ、ホモ、ホモの巣窟。あのくねくねと迷路のような建物はレクタム(直腸)そのもの…

それに続くエゲツない殺人描写。不穏なSEと乱れまくるハンディカムと相まって、まるで悪夢を観せられている感覚です。

その後も魔的な描写は延々と続き、混沌と混乱がない混ぜになり、そして結末の原因となる、悍ましい暴行シーンに差し掛かります…

「未来はすでに決まっている」

その言葉が書かれた本に感銘を受けるアレックス。皮肉と言えば皮肉で、もし彼女が信じるこの説が真実ならもうこの時点で不可逆は始まっている事になります。

その本によると、未来がすでに決まっている証拠として"正夢"がいい例だとも言っています。それはこれからアレックスの身に襲いかかる不穏な予兆ともなります(ここでの僕なりの解釈は、コメント欄に入れておきます)。

とにかくいつもやる事がエグ過ぎるノエ監督。しかし彼の映像作家としての実力は認めざるを得ません。1シーン毎での長回し、その効果たるや映像としても演出としても絶大で、リアルと緊迫感がワンカメで中に凝縮されています。

そして現在から過去、汚れから無垢へと遡る時系列も見事でした。イ・チャンドン監督の「ペパーミントキャンディ」のように"原点"に戻る演出は、より結末の哀しさを誘います。

映像はめちゃくちゃですが、意外と言っている事はとってもピュアなノエ監督。もっともっと彼の作品を観てみたい。本当一度観たらクセになる監督です。
ベイビー

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